はじめに
これまでの記事では、馬の難産について・事前準備
・胎子の失位
・牧場での整復
・二次診療へ搬入を検討する症例
・二次診療に搬入された場合
について記事にしてきました。
今回の記事では、
難産後の繁殖牝馬について触れてみたいと考えています。
難産後には繁殖牝馬の熱発や蹄葉炎など、全身疾患に加えて、子宮頸管裂創などの繁殖能力に関わる問題も認められると思います。
今回はそれらを簡単にまとめてみます。
難産後の問題
難産を整復するためには、ある程度の子宮汚染を引き起こしてしまいます。これは人の手で整復する必要があるため、避けようがないと思います。これに加えて、膣粘膜は長時間の難産介助により乾燥、損傷が認められます。
また、一部の難産では長時間の胎盤停滞が認められる場合もあります。
上記のような要因から、難産後に産褥熱を示すことがあるため、難産後の繁殖牝馬は、検温、跛行有無の確認、一般状態のチェックが必要だと考えています。
難産後に起こる急性子宮内膜炎から産褥性蹄葉炎になってしまった馬を複数頭数、経験していますが、これまでに良好な予後を得られていません。
急性子宮内膜炎を起こさない、重篤化させないために、難産後の繁殖牝馬の全身状態を注意深く観察し、状況によっては積極的な治療が必要だと思います。
難産後の子宮洗浄については様々な意見がありますが、
私は難産後、急性子宮内膜炎が疑われる場合には積極的に子宮洗浄を実施し、子宮内貯留液を排出することが重要だと経験的に考えています。
また、難産により分娩した馬では、子宮頸管裂創を引き起こしている場合があるため、子宮頸管の状態について診断する必要があると思います。
子宮頸管裂創を診断するためには黄体期に子宮頸管を触診することが信頼性のある診断方法の1つだと思います。
そのため、難産により分娩した繁殖牝馬は、分娩後初回発情での排卵が認められた5−8日後に子宮頸管の触診をすべきだとの記載がありました。
子宮頸管裂創と診断された場合、子宮頸管再建術を実施し、頚管の裂創部を縫合することも可能です。
ただし、子宮頸管裂創により子宮頸管が完全に閉鎖しない状態のまま、2年間以上が経過した場合、子宮への慢性感染により慢性子宮内膜炎となり繁殖能力が著しく低下することが報告されています。
このような理由から、子宮頸管の裂創が認められた場合には、そのシーズンのうちに手術を実施する、もしくはそのシーズンはそのまま交配し、受胎しなかった場合にはシーズン終了後に手術を実施した方が良いのではと考えています。
今回まで続いた難産シリーズはこの記事で終了です。
そろそろ日高管内でも子馬の誕生が本格化してきました。
今シーズン、難産症例を少しでも多く助けられるように頑張りたいと思います。
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