要約
腕節の骨片や骨増生はレポジトリーで認められるのはごく稀です。骨片が認められた場合は速やかに関節鏡手術にて摘出することが推奨されます。関節炎が認められる場合は予後に影響を与えると考えられます。はじめに
レポジトリーに提出されるX-ray画像において腕節の骨片は比較的稀な所見です。腕節における骨増生は骨片に比較すると認められるケースの多い所見となります。Dorsal Medial Carpal DiseaseはKaneらの論文で第3手根骨および橈側手根骨における背側骨皮質の肥厚、骨増生および骨片と定義された所見で、騎乗調教前の1歳馬においても認められます。競走馬では腕節の剥離骨折は非常に一般的な疾患ですが、調教および出走をしていない1歳馬では非常に稀と言えます。
腕節の骨増生も競走馬では多く認められますが1歳馬でも発生が認められます。
第3手根骨および橈側手根骨の骨片や骨増生は若齢競走馬で認められることが多く、腕節の他の箇所と比較して手術後の再発率が高いと考えています。
腕節の骨片
図で矢印で示しているのが腕節の骨片です。ちなみにこのX-rayでは橈側手根骨の遠位で剥離骨折が認められます。
私個人としては、この所見が認められた馬は速やかに関節鏡手術を実施すれば、大きな問題とならないと考えています。これは実際の競走馬においても剥離骨折の手術後に良好な競走成績を上げた馬が存在することが証明しています。
ただ、1歳時の運動強度で腕節の剥離骨折が起こるのは将来に無事に多くの回数、出走させることができるのか、不安は残りますが・・・。
このようなX-ray所見が認められた場合、関節鏡手術による骨片摘出術を行うことが推奨されます。
1歳馬でもこのようなX-ray所見があれば多くのケースで関節の腫脹および軽度な屈曲痛が認められます。
跛行は軽度もしくは示さない場合もあります。
予後は一般的に損傷した軟骨および骨の量、骨折箇所に影響を受けます。
1歳馬での情報は限られていますが、競走馬での予後について触れておきます。
少し古い論文ですが、McIlwraithらの報告 (1987)ではサラブレッド種競走馬の腕節剥離骨折の術後成績において手術前と同等もしくはそれ以上のクラスにおいて競走に出走できた馬の割合は以下に示した結果となりました。
・橈側手根骨 遠位; 55.4%
・中間手根骨 遠位; 100%
・第三手根骨 近位; 58.8%
・橈骨 遠位 ; 74.2%
・中間手根骨 近位; 61.5%
・橈側手根骨 近位; 75.0%
1歳馬における詳細な情報では、
日本国内の1歳馬を調査したMiyakoshiらの報告 (2017)ではこの所見の発生率は、0.7% (6/852) と示され、非常に稀に認められる所見であることがわかります。
アメリカでは0.8% (9/1130) (Kane et al. 2003)、オーストラリアでは0.7% (18/2401) (Jackson et al. 2009)の割合で1歳馬のレポジトリー提出資料でこの所見が認められることが報告されています。
気になる競走成績への影響についてですが、上記の各論文の結果を確認してみましょう。
日本国内の調査では、2-3歳時の出走率との関連性について調査されています。
この調査の結果では2-3歳時の出走率にはこの所見が影響を与えなかったことが示されています。ちなみに所見が認められた6頭全てが出走していたので出走率は100%ですね。
アメリカでの調査では、出走率に加えて、出走した馬については入着率、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金についても調査しています。国内での研究結果と同様にこの所見は全ての調査項目に影響を与えませんでした。
オーストラリアの調査では頭数が少ないため、剥離骨片については競走成績については記載を見つけることはできませんでした。
腕節の骨増生
図の矢印で示してる所見が腕節に認められる骨増生です。左図では橈骨遠位外側および中間手根骨近位に骨増生が認められます。
1歳馬のレポジトリーで認められる腕節の骨増生の所見は、臨床症状を示すケースは稀だと思われます。
時折、腕節の腫脹、屈曲痛が認められる症例がありますが、その場合は関節鏡による手術を検討しても良いかもしれません。
腕節の骨増生は時折、1歳馬においても確認される所見です。骨増生の認められる場所により予後は異なると考えられるため、部位を確認することが重要です。
この所見は主に競走馬や騎乗調教を行なっている育成馬で認められるのが一般的です。
育成馬では橈側手根骨の遠位および第三手根骨の近位内側に認められる場合が多いのですが、これらの部位に骨増生が認められるものはDorsal Medial Carpal Diseaseとして定義して、次の章で記載することにします。
橈骨、中間手根骨近位、橈側手根骨近位の骨増生は予後が良好だと考えられます。中間手根骨の遠位に骨増生が認められる場合は注意が必要です。
論文からの情報では、
日本国内の1歳馬を調査したMiyakoshiらの報告 (2017)ではこの所見の発生率は、2.8% (24/852)です。
アメリカでは1.7% (19/1130) (Kane et al. 2003)、オーストラリアでは3.3% (79/2401) (Jackson et al. 2009)の割合で1歳馬のレポジトリー提出資料にこの所見が認められることが報告されています。
いずれの報告においても発生率は2-3%程度であり、比較的、認められるX-ray所見であることがわかります。
競走成績への影響についても、上記の各論文の結果を確認してみましょう。
日本国内の調査では、出走率との関連性について調査されているが、この所見は出走率に影響を与えませんでした。
アメリカでの調査では、出走率に加えて、出走した馬については入着率、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金についても調査しており、この所見はいずれの調査項目にも影響を与えなかったと報告されています。
オーストラリアの調査では出走率に加えて、入着回数、入着率、獲得賞金について検討した結果、腕節の骨増生はそのいずれについても影響ないと示されています。
臨床症状(屈曲痛・関節の腫脹)が認められる場合は手術による治療も検討すべきだと思われます。
Dorsal medial intercarpal joint disease
Dorsal medial intercarpal joint disease はKaneらの報告 (2003)により"橈側手根骨および第三手根骨背側の骨増生。もしくは骨片"として定義されている。
腕節の手根骨間関節の内側での骨増生と骨片ってことになります。
論文からの情報では、骨片の章でも示しましたが、確認のためにもう一度、この所見は、国内の調査ではデータ上は差が認められませんが、レポジトリーで見つけた時は注意が必要だと考えています。
ザクっと言うと、ちなみに図では橈側手根骨の背側の骨増生および遠位での骨片が認められます。この所見は、おそらく馬の肢軸の影響を受けていると考えているのですが・・・。それを示すデータは見当たりません。
日本国内の1歳馬を調査したMiyakoshiらの報告 (2017)ではこの所見の発生率は1.8% (16/852) です。
アメリカでは2.7% (30/1130) (Kane et al. 2003)、オーストラリアでは2.8% (68/2401) (Jackson et al. 2009)の割合で1歳馬のレポジトリー提出資料にこの所見が認められることが報告されています。
いずれの報告においても発生率は2-3%程度であり、比較的、認められるX-ray所見であることがわかります。
競走成績への影響についても、上記の各論文の結果を確認してみましょう。
日本国内の調査では、出走率との関連性について調査されているが、この所見は出走率に影響を与えませんでした。
アメリカでの調査では、出走率に加えて、出走した馬については入着率、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金についても調査しており、この所見が認められる馬では出走率が低いことが報告されています。(所見あり; 63% vs 所見なし; 82%)
オーストラリアの調査では出走率に加えて、入着回数、入着率、獲得賞金について検討した結果、この所見はそのいずれについても影響ないと示されています。
Kaneらの論文では明らかに出走率の低下が認められるものの、他の2つの論文ではそのような差は認められないという相反する結果となりました。
臨床的にはこのような所見は若齢競走馬・育成馬で認められるものが多く、慢性的に軽度な跛行が認められる症例が多いと感じています。
腕節剥離骨片の関節鏡手術後に手術前と同程度、もしくは手術前以上のクラスで競走することのできた馬の割合になります。
・橈側手根骨 遠位; 55.4%
・中間手根骨 遠位; 100%
・第三手根骨 近位; 58.8%
・橈骨 遠位 ; 74.2%
・中間手根骨 近位; 61.5%
・橈側手根骨 近位; 75.0%
赤字で示しているのがこの所見に含まれるヶ所ですが、明らかに他の部位よりも予後が悪いことがわかります。
まとめ
腕節における骨片や骨増生は
・1歳馬のレポジトリーで稀に認められるX-ray所見の1つ
・競走馬としての予後は損傷部位と程度により様々
・腕節の剥離骨折は関節鏡手術による摘出が推奨される
だと考えられます。
参考文献
下記に参考文献を示します。興味を持たれた方はぜひ原文を読んでいただければ幸いです。Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales." Equine Veterinary Journal 35.4 (2003): 354-365.
Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance." Equine veterinary journal 35.4 (2003): 366-374.
Jackson, Melissa, et al. "A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings." Rural Industries Research and Development Corporation. Publication 09/082 (2009): 09-082.
McIlwraith, C. W., Yovich, J. V., & Martin, G. S. (1987). Arthroscopic surgery for the treatment of osteochondral chip fractures in the equine carpus. Journal of the American Veterinary Medical Association, 191(5), 531-540.
Miyakoshi, Daisuke, et al. "A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan." Journal of Veterinary Medical Science 79.11 (2017): 1807-1814.
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