はじめに
新生子適応障害症候群は英語ではNeonatal Malajustment Syndrome
と表記される症候群になります。
これは症状を示す用語であり、疾患名とは言えません。
このような症状を示す用語には新生子低酸素脳症も同様の症状を示す用語として使用される場合があります。
これは、新生子適応障害症候群の症状が低酸素脳症により引き起こされるためだと考え、名付けられたと思われます。
この他にも周産期仮死症候群やダミーフォールとも呼ばれています。
新生子適応障害症候群の発生率は1-2%と考えられています。
主な症状
- 環境への認識不足
- 横臥
- 起立不能
- 見当識障害
- もがき
- 繁殖牝馬への興味喪失
- 吸入反射の減少・消失
- 後弓反張
症状は早ければ1日で改善し、遅い馬では5日もしくはそれ以上の治療期間が必要な場合もあります。
Category
新生子適応障害症候群は2つのCategoryに分類することができます。Category 1
出生時は正常。出生後6-24時間後に発症。
一般的に生存率は80%。予後は良好。
Category 2
出生時より異常。
一般的に生存率は30%。
いずれの場合にも5日以上の経過で症状の改善が認められなければ、予後は悪いと考えられています。
治療方法としては
主に対処療法が選択されるのが一般的だと考えています。
最近の報告
これまでにDr. Madiganらのグループから非常に興味深い研究報告がなされています。1つ目の論文では、
正常な新生子馬に Allopregnanoloneというホルモンを投与することで新生子適応障害症候群と同様の症状を示すことを明らかにしました。
2つ目の論文では、
正常な子馬に比較し、新生子馬適応障害症候群の子馬では血中の Allopregnanolone, Pregnanolone, Progesteroneが高い値を示すことを明らかにしました。
そして、3つ目の論文では、
Rope Squeezeを新生子適応障害症候群の子馬に対し、実施することで、治療期間が短縮することを報告しています。
これらの研究により、Rope Squeezeが新生子適応障害症候群の治療方法として有用な可能性が示唆されました。
なぜ Rope Squeezeは新生子適応障害症候群の子馬の治療方法となり得るのでしょうか??
Dr. Madiganらの研究チームでは、胎子が子宮内にいる状態ではAllopregnanoloneの血中濃度が高い点などに注目し、新生子適応障害症候群の一部の子馬では、出生後に胎子状態への逆戻りが起こっているのではないかと推察しています。
また、胎子状態から新生子馬への切り替えのスイッチは産道通過による胸部圧迫であるとDr. Madiganらは考えています。
このような推察の元、新生子適応障害症候群の子馬に対して、Rope Squeezeによる胸部圧迫を行うことで、胎子状態への逆戻りから再び新生子の状態へと復帰させることができると考え、治療としてのRope Squeezeがスタートしました。
Rope Squeezeによる新生子適応障害症候群への治療は、多くの獣医療関係者へのアンケート形式でその治療効果について調査が実施され、その結果、Rope Squeezeは新生子適応障害症候群の治療期間を短縮させるとの結果が示されました。
私はこの治療方法について
2013年に米国で参加したシンポジウムで知りました。
それ以降、Rope Squeezeを診療に取り入れていますが、有用な場合が多いと考えています。その調査結果については次回からの記事で紹介していきたいと考えています。
0 件のコメント :
コメントを投稿