はじめに
結腸捻転は結腸での絞扼性疾患であり、開腹手術による治療が必要となります。分娩後の繁殖牝馬においてもっとも頻繁に認められるため、生産地では比較的ポピュラーな疾患だと言えます。
結腸捻転は緊急で治療を行わなければならない疾患の1つであり、外科的治療が行わなければ発症馬は死亡してしまいます。
今回、紹介する論文では、
疝痛発見から開腹手術までの時間が結腸捻転による開腹手術を受けたサラブレッド種繁殖牝馬の手術成績に影響を与えるのか
について研究しています。
今回は、
"Duration of disease influences survival to discharge of Thoroughbred mares with surgically treated large colon volvulus."という論文を紹介します。
それではSummaryを和訳してみます。
Summary
背景;結腸捻転は結腸の絞扼性疾患であり、開腹手術治療が必要である。外科手術までの疝痛の経過時間は手術後の生存率に影響を与えると考えられる。
目的;結腸捻転により開腹手術を実施したサラブレッド種牝馬の予後と手術までの経過時間の関連性を明らかにすること。他の要因と手術後の予後についても関連性を検討する。
研究デザイン;回顧的調査
方法;1986年3月から2011年2月までに結腸捻転により開腹手術を受けた2歳以上の牝馬の医療記録を調査対象とした。多変量ロジスティック解析を用いて経過時間および他の要因と手術後の退院率の関連性を明らかにした。
結果;調査期間中に896頭のサラブレッド種牝馬が計1039回の開腹手術を受けていた。疝痛発見から病院到着までの時間経過の中央値は2時間(interquartile range 1-4時間)。病院到着から外科手術までの経過時間の中央値は25分(interquartile range 15-45分)。手術時間の中央値は70分(interquartile range 55-85分)。基本的な手術手技は結腸の捻転を整復することであった。全体での退院率は88%であった。多変量解析の最終モデルの結果、疝痛発見から来院までの時間、来院時のPacked volume cell、全身麻酔下での低血圧の時間、手術後48時間での心拍数、手術後の糞便性状、入院日数が退院率と関連性が認められた。
結論;疝痛発見から来院までの経過時間は退院率と有意に関連性が認められた。他の要因で退院率と関連性が認められたものは、重症度および腸管障害の程度に関与するものであった。牝馬における結腸捻転は早期の来院と速やかな外科治療により良好な予後が得られる。
感想
もっとも驚かされる結果の1つは退院率が88%という高い値を示していることです。この結果が短い期間の結果ではなく、約30年という長期間の手術成績だという点でも非常に驚異的な結果だと考えています。
この結果は手術を担当する外科医の診療技術が優れていることを示しているだけでなく、手術が必要だと判断し、手術施設への搬入を決定している牧場獣医師、往診獣医師の診療も同様に優れているためだと考えています。
かつて、手元のデータをまとめてみたところ、退院率は78%でした。この結果は過去の報告で示されていた短期生存率50-70%と比較するとやや高い値だったものの、今回紹介した論文の88%と比較するともう少し改善の余地がありそうです。
今回の紹介した論文では、 2次診療施設搬入までの疝痛時間が2-4時間の繁殖牝馬では3倍、4時間以上の繁殖牝馬では12倍、2時間未満の繁殖牝馬に比較し生存できない可能性が高いと報告されています。
疝痛発見から2時間未満で2次診療施設に搬入することはこちらでは距離の関係からも難しいかもしれません。しかしながら、今回、紹介した論文を参考になるべく早いタイミングで2次診療施設に搬入することでより退院率が高くなることが期待できます。
また、今回紹介した論文での手術時間の中央値は70分であり、非常に手術が早いことがわかります。これだけスムーズに手術を実施できることは素晴らしいことだと思います。
かつて手元のデータを確認してみたところ、ほとんどの症例で手術時間が90分を超えていました。今後、手術技術を向上させることで成績も向上させていきたいと思います。
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