大腿骨骨嚢胞に対する螺子挿入術 (Santschi EM et al. 2015)

はじめに

大腿骨骨嚢胞は主に1-2歳における後肢の跛行の原因となり得る所見の1つです。
これらの所見は早いものでは当歳から跛行の原因となる症例もあります。また、遅いものでは3歳馬におけるこの所見での跛行も経験したことがあります。

現在は1歳馬で提出するレポジトリーにおいても後膝のX-ray画像は提出画像となっており、販売者および購買者ともに強く興味を持つX-ray所見の1つだと考えております。

これまでに大腿骨骨嚢胞に対する治療方法としては、
保存療法、病巣内へのステロイド剤の投与、関節鏡による病巣のデブライドメント、そして、デブライド後に海面骨移植、幹細胞投与などの様々な治療方法が報告されています。

近年、再生医療への注目が高まり、日本国内の大学においても骨嚢胞デブライドメント後に様々な再生医療を実施した実験が報告されていました。

今回、ご紹介する論文は、
大腿骨骨嚢胞の内外方向に骨嚢胞を貫通するように螺子を挿入する方法です。
この方法はSantschi先生らが中心となり開発された方法であり、
私個人的な意見としては非常に素晴らしい治療方法の1つだと考えています。

それでは、論文を紹介します。
論文のタイトルは、
”Preliminary investigation of the treatment of equine medial femoral condylar subchondral cystic lesions with a transcondylar screw.”
になります。



それではまずは、要約の和訳を確認しましょう!

Abstract


目的;跛行の原因となっている大腿骨内側顆の骨嚢胞に対して骨嚢胞を跨ぐようにラグスクリューを挿入した場合のX-ray画像上の治癒および跛行の軽減を明らかにすること


研究デザイン;症例の回顧的調査

動物;大腿骨内側顆の骨嚢胞により跛行を呈している馬 20頭。

方法;後肢の跛行を呈する症例馬に対して、4.5mm皮質骨螺子を大腿骨内側顆を跨ぐようにラグスクリュー法で挿入した。手術後のX-ray撮影と跛行検査を30-60日間隔で手術から120日まで実施し、X-ray画像での骨嚢胞の大きさと跛行のグレードについて調査した。治療の成功は手術後120日までに跛行が取り除かれ、尾→頭方向のX-ray画像で骨嚢胞の大きさが当初よりも50%以上減じた場合と定義した。

結果;26肢について治療を実施した。9頭(11肢)には自己補助生物製剤を骨嚢胞内に投与した。手術後60日までに18頭で跛行のグレードで1-2の良化が認められ、120日までに15頭では跛行が消失し、X-ray画像においても骨嚢胞の大きさが50%以上減少し、跛行なしに元の使役に復帰した(追跡調査期間 平均値12ヶ月)。生物製剤は結果に影響を与えなかった。3歳よりも年齢が高い馬では低い成功率を示した。

結論;大腿骨骨嚢胞における螺子挿入術により手術を実施した75%の馬で手術後120日までにX-ray画像での骨嚢胞の大きさが減少し、跛行が消失した。螺子挿入術は非常にシンプルな手術方法であり、特別な道具を必要としないという利点がある。上記の治療成績に加え、このような利点があることから螺子挿入術は馬の骨嚢胞に対する有用な治療オプションだと考えられる。

引用終了

感想

これまでの大腿骨骨嚢胞に対する治療成績が60-70%であったことから、いかにこの方法が有用なのかお判りいただけると思います。
私も現在、大腿骨骨嚢胞の治療方法としてはこの螺子挿入術を積極的に行なっています。
実際に実施してみてのメリットおよびデメリットを下記に示したいと思います。

メリット

・大きな骨嚢胞に対して手術可能
・他の治療法実施済み症例でも手術可能
・治療期間が短期間

デメリット(+難しい点)

・技術的には難易度が高い
・時折、骨嚢胞が大きくなる

メリットとして挙げた3点のうち、特に
1,2点目については本当に有用なオプションとして機能していると考えています。
これまでにステロイド投与により良化が認められなかった大型の骨嚢胞に対しては正直、お手上げだったため、このような有用なオプションを手に入れたことで治療できる馬が多くなったと感じています。
また、3点目は個体差があるものの、ハマった馬では明らかに関節鏡手術によるデブライドメントに比較し早期に運動復帰できていると考えています。
これは私の診療対象であるサラブレッド競走馬、特に若齢の競走馬においては大きなメリットだと考えています。

さて、デメリットについても少し触れておきます。
まずは、技術的な問題点です。新しい手技ゆえにやはり難しい点がいくつかあるのも事実です。現在、症例が増えつつあり、手技的に安定してきていますが、当初は手術に多くの時間がかかりました。症例毎に反省と改良を繰り返し、より良い手術を実施できるようにしていきたいと思います。

もう1点は、なぜか螺子挿入後に骨嚢胞が広がってしまう症例がおり、そのような症例では比較的跛行が長期化します。このような症例を適切に判断し、何かしら予防や治療を行えるよう準備をしていきたいと考えています。


まとめ

大腿骨骨嚢胞に対する螺子挿入術は治療において有用なオプションとなり得ると考えられます。

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