1歳馬のレポジトリー; 飛節; OCD

要約

飛節のOCDは比較的よく認められる所見であり、基本的に競走成績に影響はありません。

臨床症状としては関節の腫脹が認められることがあります。治療方法は関節鏡手術による骨片の摘出であり、手術後の成績は良好です。


はじめに

飛節のOCDはレポジトリーでよく発見される所見です。

OCDはOsteochondrosis Dissecansの略で日本語訳は離断性骨軟骨症になります。


臨床的には関節液の増量に伴う飛節の腫脹を主訴として発見されるケースが多いのですが、X-ray所見を示す症例のうち全てが臨床症状を示すわけではありません。

また、ほぼ全ての症例で跛行および疼痛を示さないことがよく知られています。


飛節でのOCDの好発箇所は主に3箇所であり、
脛骨中間稜 (Tibia intermediate ridge)、
脛骨内果 (Tibia Medial Malleolus)、
そして距骨外側滑車 (Talus, Lateral Trochlear Ridge)になります。

この3箇所以外にも距骨内側滑車 (Talus, Medial Trochlear Ridge)にも病変が認められますが、関節外に病変があることがほとんどであり、実際に臨床症状を引き起こすのはごくごく稀です。



脛骨中間稜

















図の黄色丸で示すのが中間稜のOCD所見になります。

黄色丸内に骨片があるのがお判りいただけると思います。



はじめにでも記載したように競走能力に影響を与えることはまずありません。



この所見が認められる馬では飛節軟腫を示す可能性がありますが、関節鏡手術で骨片を取り除くことで問題は解決します。



予後は基本的にexcellentになります。



詳細な情報では、

日本国内の1歳馬を調査したMiyakoshiらの報告 (2017)ではこの所見の発生率は、6.6% (68/976)と示され、比較的、頻繁に認められる所見であることがわかります。

アメリカでは2.7% (Kane et al. 2003)、オーストラリアでは3.4% (Jackson et al. 2009)の割合で1歳馬のレポジトリー提出資料でこの所見が認められることが報告されています。



気になる競走成績への影響についてですが、上記の各論文の結果を確認してみましょう。

日本国内の調査では、出走率との関連性について調査されており、この所見は出走率に影響を与えなかったことが明らかになっています。

アメリカでの調査では、出走率に加えて、出走した馬については入着率、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金についても調査しており、この所見は全ての調査項目に影響を与えなかったことが報告されています。

オーストラリアの調査では飛節のOCDは他の箇所も加えて一つのグループとして競走成績への影響を調査している。出走率に加えて、入着回数、入着率について検討しており、飛節のOCDはそのいずれについても影響与えなかったことが示されています。




脛骨内果






図の丸印で示してる所見が脛骨内果のOCDになります。このX-ray画像は左飛節のものを示しています。



この所見も前述の脛骨中間稜と同様に競走能力に影響を与えることはまずありません。

この所見は飛節でもっとも一般的な脛骨中間稜のOCDに比較し、飛節の腫張が強い傾向が認められます。

関節鏡手術後の関節の腫張も中間稜にOCDが認められた場合に比較し引きにくいと感じています。



予後は基本的にexcellentです。



論文からの情報では、

日本国内の1歳馬を調査したMiyakoshiらの報告 (2017)ではこの所見の発生率は、1.2% (12/976)と示され、飛節のOCDのうち13.7% (12/89)に当たります。

アメリカでは0.5% (Kane et al. 2003)、オーストラリアでは0.8% (Jackson et al. 2009)の割合で1歳馬のレポジトリー提出資料にこの所見が認められることが報告されています。

いずれの報告においても中間稜での発生率に比較すると低いです。


競走成績への影響についても、上記の各論文の結果を確認してみましょう。

日本国内の調査では、出走率との関連性について調査されているが、この所見は出走率に影響を与えませんでした。

アメリカでの調査では、出走率に加えて、出走した馬については入着率、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金についても調査しており、この所見はいずれの調査項目にも影響を与えなかったと報告されています。

オーストラリアの調査では脛骨中間稜で述べたように飛節のOCDは他の箇所も加えて一つのグループとして競走成績への影響を調査しており、出走率に加えて、入着回数、入着率について検討した結果、飛節のOCDはそのいずれについても影響ないと示されています。






距骨外側滑車







図の矢印で示されているのが、

実際の距骨外側滑車のOCDの病変です。



この箇所のOCD病変についても飛節の他の箇所で認められるOCDと同様に競走成績に影響を与えることはないとされています。



距骨外側滑車のOCDの予後はexcellentと考えて問題ありません。



この部位ではより広範囲の病変が時折認められます。その場合、当歳の早い時期から飛節の腫脹が認められることが多く、手術を受けることになるためレポジトリーでは手術後のX-rayを確認する場合が多いかもしれません。



国内での報告によると、

国内のセールに提出されたレポジトリー資料のこの所見の発生率は0.9%(9/976)とされており、他の飛節のOCDと比較し、発生率は高くありません。

米国での報告では、1.3%、豪国での報告では0.5%の発生率が報告されていて、いずれの報告においてもその発生率は他の飛節でのOCDに比較し低いことがわかります。



日本国内、米国そして豪国いずれの報告においても競走成績への影響は認められておらず,

競走成績に影響を与えることはないと考えられます。



ただ、私個人の経験では当歳の早い時期から飛節の腫脹が認められるような、広範囲の病変では手術により病変部の摘出を行った後でも、長期間に渡り関節の腫脹が継続した症例を経験しています。



いずれにしても、臨床症状が認められるのであれば関節鏡手術にて、病変部の摘出することで良好な予後を得ることができます。






まとめ

飛節のOCDは

・1歳馬のレポジトリーでよく認められるX-ray所見の1つ

・競走馬としての予後は良好

・臨床症状(飛節の腫脹)が認められたら手術が必要

だと考えられます。


参考文献
下記に参考文献を示します。興味を持たれた方はぜひ原文を読んでいただければ幸いです。



Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales." Equine Veterinary Journal 35.4 (2003): 354-365.



Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance." Equine veterinary journal 35.4 (2003): 366-374.


Jackson, Melissa, et al. "A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings." Rural Industries Research and Development Corporation. Publication 09/082 (2009): 09-082.


Miyakoshi, Daisuke, et al. "A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan." Journal of Veterinary Medical Science 79.11 (2017): 1807-1814.








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