要約
大腿骨内側顆のボーンシストは跛行の原因となり得ます。この所見は
レポジトリー提出資料の5%程度で認められます。
ボーンシストが認められた1歳馬のうち80%程度は跛行を示さなものの、
20%程度はボーンシストが原因となる跛行を示し、
跛行を示した馬では低い出走率を示します。
購入に際してはこのようなリスクを十分に加味する必要があります。
大腿骨骨嚢胞(ボーンシスト)
大腿骨のボーンシストはレポジトリーで認められる所見のうち、比較的、多くの販売者および購買者が気にしている所見の1つだと思われます。
ボーンシストは主に大腿骨内側顆で認められ、跛行の原因となり得ることが知られています。
それでは、X-rayを確認しましょう!
これは後ろ→前で撮影したX-rayです。
黄色丸の中にぼんやりと黒色が濃い部分があるのがわかると思います。
先ほどのX-rayに比較し、よりはっきりと黒い円が認められますね。
まずは各論文による発生率を確認しましょう!!
日本国内の1歳馬のレポジトリーについて調査した研究 (Miyakoshi et al. 2017) では、
後膝のX-ray画像が調査に含まれていないため、発生率についての記載はありませんでした。
オーストラリアの調査 (Jackson et al. 2009) では、
大腿骨のボーンシストは5.6%の発生率だと報告されています。
3.1%は深さが6mm以下であり、0.9%では7mm以上、1.1%ではサイズの記載がありませんでした。
アメリカでの調査 (Kane et al. 2003) では、600例の1歳馬、後膝のX-rayについて調査を実施しましたが、600例のうち170例のみで大腿骨内側顆の評価が可能でした。
調査の結果、大腿骨内側顆のボーンシストが認められた症例はいませんでした。
このような報告から、大腿骨内側顆のボーンシストの発生率に関しては、
Jacksonらの報告がもっとも信頼できると考えています。
そのため、ボーンシストの発生率は5%程度と考えられます。
2017年の北海道獣医師学会誌に大腿骨内側顆のボーンシストに関する論文が記載されていたので、その論文についても紹介します。
妙中ら (2017) により発表されたこの論文では、1歳馬に対してスクリーニング検査として後膝の屈曲像をX-ray撮影していました。
この調査では1203頭の1歳馬に対して検査を実施しており、
直径10mm未満の透亮像は84頭 (7.0%) で認められ、直径10mm以上のボーンシストは33頭 (2.7%) で認められました。
この論文では後膝の屈曲像による検査を実施しているため、Jacksonらの報告と比較し、
より所見を発見しやすいと考えられます。
これらの論文より、いわゆるボーンシストは3-5%程度で認められ、それに加え、屈曲像では7%ほどの透亮像が認められると考えられます。
それでは大腿骨内側顆のボーンシストと競走成績の相関についても確認しましょう!!
まずはオーストラリアでの調査 (Jackson et al. 2009) を確認します。
この論文では出走率、入着率、獲得賞金、1回出走あたりの獲得賞金等について相関を検討しています。
検討の結果、大腿骨、内側顆のボーンシストはいずれの項目とも相関が認められませんでした。
ボーンシストの深さ6mmを境に2つのグループに分け、それぞれのグループと調査項目の相関関係についても検討されました。
この結果、深さが7mm以上のボーンシストが認められた馬では、2歳時および3歳時のいずれも出走した率が10%であり、対照群 (37.2%) に比較し有意に低いことが示された。
つまり、この論文の結果から
深さが6mm以上の大腿骨内側顆のボーンシストでは、出走率が低いこと
が明らかになったと考えられます。
次に妙中ら (2017) の論文についても確認しましょう!
この論文ではスクリーニング検査をした1203頭のうち、ボーンシストが原因となる跛行を認めたのは7頭 (0.6%) であったと報告されています。
検査時にX-ray所見を認めなかった996頭のうち1頭で、その後、ボーンシストにより跛行が認められ、検査時に10mm以上のボーンシストが認められた33頭のうち6頭 (18.2%) がボーンシストが原因となる跛行を呈しました。
また、スクリーニング検査時に10mm以下の透亮像を認めた馬では、その後、ボーンシストが原因となる跛行を呈した馬は認められませんでした。
つまり、スクリーニング検査により10mm以上のボーンシストが認められた馬のうち、80%以上は、ボーンシストによる跛行が認められませんでした。
しかしながら、ボーンシストが原因の跛行が認められた7頭中6頭が競走馬としてデビューすることなく引退しています。
これらの結果から、
1歳時に10mm以上のボーンシストが認められた馬の80%はボーンシストが原因となる跛行は示さないことが明らかになりました。
そして、残念な結果ですが、
ボーンシストによる跛行が認められた症例では出走率が著しく低いことも明らかになっています。
以上の結果から
1歳馬のレポジトリーにおいて大腿骨のボーンシストが認められた場合は、
・跛行の原因とならない可能性が高い (80%)
・ただし、跛行が認められた場合には出走率が低い (14%)
の2点を十分に理解して、購入を検討しましょう。
まとめ
1歳馬の大腿骨内側顆のボーンシストは、・2.7-5%程度の発生率
・出走率を低下させる可能性があります。
・X-ray所見が認められた馬がその所見により跛行を呈する可能性;80%
・跛行を呈した場合の出走率:14%
でした。
参考文献
Kane, A. J., Park, R. D., McIlwraith, C. W., Rantanen, N. W., Morehead, J. P., & Bramlage, L. R. (2003). Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales. Equine Veterinary Journal, 35(4), 354-365.
Kane, A. J., McIlwraith, C. W., Park, R. D., Rantanen, N. W., Morehead, J. P., & Bramlage, L. R. (2003). Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance. Equine veterinary journal, 35(4), 366-374.
Jackson, M., Vizard, A., Anderson, G., Clarke, A., Mattoon, J., Lavelle, R., ... & Whitton, C. (2009). A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings. Rural Industries Research and Development Corporation. Publication, (09/082), 09-082.
Miyakoshi, D., Senba, H., Shikichi, M., Maeda, M., Shibata, R., & Misumi, K. (2017). A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan. Journal of Veterinary Medical Science, 79(11), 1807-1814.
妙中 友美, 川崎 洋史, 津田 朋紀, 大久保正人, 竹田 敏弘, 長嶺 夏子, 中島 文彦 (2017). サラブレッド1歳馬の大腿骨遠位内側顆 X線スクリーニング検査における有所見率とその後の跛行発症との相関, 北海道獣医師会雑誌, 61, 207-210.
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