1歳馬に認められるX-ray所見と競走成績の相関 (Kane et al. 2003)

はじめに

今回取り上げる論文は、
以前に紹介した論文の続編になります。
以前に紹介した論文では、X-ray所見の発生率について記載されていました。

もし興味がある方はぜひ以前の論文紹介も確認してみてください→こちら

論文紹介

さて、今回、紹介する論文では
1歳馬のセール前後に撮影したX-ray画像における所見とその後の競走成績の相関関係について研究した論文になります。


2003年にEquine Veterinary Journalに掲載されたこの論文は、この分野での初めての本格的な論文であり、以降、この論文を参考に複数本の論文がデザイン、作成されています。

それでは、早速、
Summaryを和訳してみます。


研究背景;
1歳馬の四肢X-ray検査はサラブレッド市場においては一般的に受け入れられつつあるが、X-ray画像から将来の競走能力についてのアドバイスを求められる獣医師のための情報は限られている。

目的;
1歳サラブレッドの球節、近位種子骨、腕節、飛節、後膝、そして前肢蹄に認められるX-ray所見と2-3歳時の競走成績との相関関係を明らかにする。

方法;
セール前後に撮影されたX-ray画像セット1162頭分を用いてX-ray所見を診断した。
出走有無、入着率、獲得賞金、そして1回出走あたりの獲得賞金を競走成績項目としてX-ray所見との相関関係について検討した。

結果;
946頭 (81%) の1歳馬は2もしくは3歳時に少なくとも1回は出走した。
第三中手骨掌側顆上の中程度から重度の透亮像が認められた馬では24頭中14頭 (58%) 、
近位種子骨での靭帯付着部の異常が認められた馬では14頭中8頭 (57%)、Dorsal medial intercarpal joint disease が認められた30頭中19頭 (63%) が出走した。
2-3歳時にこれらの所見を有する馬が出走する可能性はこれらの所見を有しない馬に比較し3倍低いことが明らかとなった (P<0,01)。
後肢の第一趾骨近位背側の骨片が認められた馬では36頭中25頭 (69%)が出走し、この所見が認められた馬では出走率が有意に低かった (P=0.07)。
後肢の近位種子骨に靭帯付着部の異常が認められた馬では、入着率、獲得賞金、1回出走あたりの獲得賞金がこの所見が認められない馬に比較し有意に低い値となった。

結論;
1歳馬のX-ray画像に認められるX-ray所見のうち、多くの所見は将来の競走成績と有意な相関は認められなかったが、いくつかのX-ray所見では将来の低パフォーマンスと相関関係が認められた。

潜在的な可能性;
本研究の結果は1歳馬市場において豊富なX-ray読影の経験をもつ獣医師の臨床的な考えと一致している。ある結果はこれまでの論文に記載されていたようにこれらの所見が偶発的に認められる所見であることを支持しており、また、ある結果はこれまでに報告されていない新たな情報を示すことができた。


この論文は多くの1歳馬のX-rayを読影し、所見をまとめ、そして実際の競走成績をまとめ、それぞれの相関関係について調査するという膨大な時間をかけて実施された研究論文になります。

このような論文が報告されたことで、
多くのX-ray所見は "偶発的に認められたもの" であることが明らかになりました。
つまり、臨床症状を伴わない多くのX-ray所見が将来も引き続き臨床上の問題の原因とならないことを学術的に示したと言えると思います。

この論文の限界としては、
この論文では不出走であった馬についてのフォローアップ調査を実施していないため、
今回、認められたX-ray所見が不出走に関与しているのかについて、詳細な情報を得ることができない点です。



まとめ

この論文では以下のX-ray所見が低いパフォーマンスと相関関係があるとされました。

  • 第三中手骨掌側顆上の中程度から重度の透亮像
  • 近位種子骨での靭帯付着部の異常
  • Dorsal medial intercarpal joint disease
  • 後肢の第一趾骨近位背側の骨片
これらの所見は念の為、知っておく必要があるかと思います。

この論文が発表されて15年が経過していますが、なかなか続編的な大規模な研究論文は発表されることがありません。

現在でも、この論文は1歳馬のレポジトリーを読影する獣医師が読んでおくべき論文の1つだと考えています。


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