繁殖牝馬に対する排卵誘発剤の使用 Vol.2

はじめに

前回の記事から、自分が書いた繁殖関係の論文について紹介しています。
前回の記事では”序章”について紹介しましてので、
今回は論文では”材料と方法”と”結果”について紹介していきたいと思います。

今回、紹介する論文の目的は
”エコー画像から排卵時期を決定し、排卵誘発剤を投与した場合の排卵率”
を明らかにすることです。

今よりもさらに経験が浅かった私が自分のために始めた調査でした。


それではまず、子宮の浮腫のグレーディングについてですね。


子宮の浮腫像のグレーディング

子宮浮腫は貴重な情報の1つとなるため、
交配時期決定時のグレードを記録していました。

子宮の浮腫像のグレーディングはエコー画像から判断でき、


グレード0:
子宮内膜に浮腫性変化はなく均一である

グレード1:
軽度の浮腫により子宮内膜が不均一に観察されるが,内膜ヒダは明瞭でない

グレード2:
子宮内膜ヒダの浮腫性変化が子宮の一部の領域で観察される

グレード3:
子宮全域にわたって明瞭な子宮内膜ヒダが観察される

グレード4:
浮腫性変化により肥厚した子宮内膜ヒダによる明瞭な車軸状所見が観察される

グレード5:
強い浮腫性変化により高エコー輝度の辺縁を有する子宮内膜ヒダと低エコー輝度の領域 が観察される

と定義して記録しました。


卵胞の直径

エコー画像から卵胞の直径を測定し、それぞれ記録しました。



排卵誘発剤

hCGの投与量は教科書を参考にすべての個体に対し, hCG3000 IU(ゴナトロピン®筋注用3000単位あすか製薬(株)東京)を交配624時間前に静脈内投与しました。

この研究実施時には静脈注射で投与していましたが、その後、筋肉内注射で投与してみてもほぼ同様の効果を示していたと思います。

こんな方法で卵胞の直径および子宮浮腫を主な情報として、交配タイミングを決定していました。
hCGも全ての症例で使用してました。


排卵率

それでは実際の排卵率について表を使って示していきます。

交配から48時間以内に93.2%で排卵が認められました。

子宮の浮腫像のグレードおよび最大卵胞の直径と排卵率の関係を下の表で示します。




グレード 1, 2, 3, 4 でそれぞれの排卵率は 100%, 78.6%, 95.2%, 93.6%で下。また, グレード 0 および 5 は本研究では認められませんでした。 子宮浮腫の各グループ間で排卵率に有意差は認められませんでした。

最大卵胞の直径が 45mm 未満のものでは排卵率が 81.3%, 45mm 以上のものでは 94.7%, 50mm 以上のものでは, 97.4%となりました。50mm 以上のものは 45mm 未満のものに比較し, 有意に排卵率が高い値となりました。他のグループ間では有意差は認められませんでした。

 卵胞が 45mm 以上で子宮の浮腫のグレードが 3 のものでは 97.1% (68/70)で排卵が認められ, 同様に卵胞が 45mm 以上で子宮の浮腫のグレードが 4 のものでは 100%(34/34) の排卵が認められました。







hCG 製剤の投与回数と排卵率の関係

1 繁殖季節中の hCG 製剤の投与が 1~2 回目の場合は排卵率が 93.6%でした。 3~4 回目の使用の場合は 85.7%となりました。


卵胞の個数と排卵率の関係

35mm 以上の卵胞が 1 個の場合は排卵率が 92.6%であり, 2 個以上の場合は 94.3%となりました。


今日はここまでです。
排卵率が93%程度ですから、10回交配すれば、1回は48時間以内に排卵していないことになります。
繁殖牝馬が7-8頭の牧場であっても、年間の交配回数は10回以上になると思いますので、
1回は排卵のタイミングが遅れる計算になります。
こう考えると、意外に排卵検査は重要なんじゃないかと思います。

ただ、この研究の大きな限界点としてはほとんどのデータが私個人のデータである点です。単純に私の診断が甘い結果、排卵率がこのような数字になった可能性は否定できません。もっと経験と知識がある獣医師であればより高い排卵率が望めたのかもしれませんね。

次回は考察部分について紹介する予定です。

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