はじめに
11月に繁殖分野の講習会に講師として呼んでもらえることになりました。昨年までは往診も行なっておりましたが、本年の3月に転職後は来診のみの仕事となっているため繁殖分野の仕事から離れています。
このような事情にも関わらず、過去の論文から今回の機会をいただけ、嬉しく思います。
せっかくの機会なので、
講習会に参加していただいた方にとって有意義な時間となるように準備を進めます。
今回はその準備もかねて、
過去の自分の論文を噛み砕き、記事にしていきたいと思います。
まずは排卵誘発剤の効果についての論文です。
排卵誘発剤の使用
妊孕性の高い雄馬の精子は交配後2日間以上, 雌馬の卵管内で受精能を有しています。 雌馬を種馬場に運び, 1回の交配により効率的に受胎させるためには, 排卵前48時間以内に交配することが適切だと考えられています。
また, 人工授精において,低温保存精液を使用する場合は排卵前12時間以内, 凍結精液を使用する場合は排卵前8時間以内での授精が適切だと思われます。
そのため, 馬の繁殖診療を行う獣医師の重要な仕事のひとつとして排卵の時期を予測し, 交配・授精の適期を決定することが求められます。
また, 人工授精において,低温保存精液を使用する場合は排卵前12時間以内, 凍結精液を使用する場合は排卵前8時間以内での授精が適切だと思われます。
そのため, 馬の繁殖診療を行う獣医師の重要な仕事のひとつとして排卵の時期を予測し, 交配・授精の適期を決定することが求められます。
卵胞直径
卵胞の直径は, 排卵時期を予測する最も有力な手がかりの1つとなります。
馬の主席卵胞は, 平均7.5日をかけてゆっくりと発育し, 牛のそれと比べて長い時間をかけて成熟卵胞へと成長することが知られています。
サラブレッド種の雌馬では, 一般的に卵胞の直径が40-45mmに至った後に排卵が起こることが知られています。
しかし, 実際には排卵直前の卵胞の直径は35~60mmと個体差があり, さらに,季節および卵胞の個数により影響を受けるとされています。そして, 黄体期にも40mmを超える卵胞が明瞭な発情徴候を示さずに発育, 排卵する, いわゆるdiestrous follicular developmentが正常な個体にも頻繁に認められます。そのため, 卵胞直径のみから排卵時期の予測を行うのは難しいと考えられます。
馬の主席卵胞は, 平均7.5日をかけてゆっくりと発育し, 牛のそれと比べて長い時間をかけて成熟卵胞へと成長することが知られています。
サラブレッド種の雌馬では, 一般的に卵胞の直径が40-45mmに至った後に排卵が起こることが知られています。
しかし, 実際には排卵直前の卵胞の直径は35~60mmと個体差があり, さらに,季節および卵胞の個数により影響を受けるとされています。そして, 黄体期にも40mmを超える卵胞が明瞭な発情徴候を示さずに発育, 排卵する, いわゆるdiestrous follicular developmentが正常な個体にも頻繁に認められます。そのため, 卵胞直径のみから排卵時期の予測を行うのは難しいと考えられます。
子宮内膜の浮腫
子宮内膜の浮腫 (endometrial edema) の程度は, 発情周期によって大きく変化することが知られています。子宮の浮腫像(車軸状変化)は, 経直腸の超音波検査により確認することができます。子宮の浮腫像は, 発情休止期後期から認められ, 発情期が進むにつれて浮腫の程度は進行し発情期中期に最も強くなるが, 排卵の24~48時間前になると減少もしくは消失することが報告されています。このような特徴から, 子宮の浮腫像の変化は, 排卵のタイミングを予測する1つの手がかりです。しかし, 子宮の浮腫像は子宮内の炎症反応の影響を受ける場合があり, 浮腫像のみから交配適期を決定するのは適切とは言えません。排卵誘発剤
ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン (human chorionic gonadotropin, 以下hCG) は,発情期の繁殖雌馬において安価な排卵誘発剤として広く使用されており, 国内でも馬の臨床現場で頻繁に使用される薬剤の一つです。
発情期後期の繁殖雌馬に2500~4000IU のhCGを筋肉内もしくは皮下に投与することで, 投与後24~48時間で排卵が起こると報告されてます。
また, 発情徴候を示し, 直径35mm以上の卵胞が認められる繁殖雌馬に2000~3000IU のhCGを血管内投与すると排卵誘発作用を示すことが報告され, 交配の6時間前の投与が推奨されていました。
これまでの報告ではhCG投与後36±4時間で排卵が認められると記載されています。投与量は最小で750IUでの排卵誘発作用が報告されており, 一般的には1500-3000IUが投与されているようです。5000IU以上の投与では繁殖成績への悪影響が報告されています。また, hCGは効果的な薬剤ですが, 分子量が大きく, ヒト由来の糖タンパクホルモンであるため, 馬の生体内に抗体が産生され, その後の投与では排卵誘発作用が減じると考えられています。
発情期後期の繁殖雌馬に2500~4000IU のhCGを筋肉内もしくは皮下に投与することで, 投与後24~48時間で排卵が起こると報告されてます。
また, 発情徴候を示し, 直径35mm以上の卵胞が認められる繁殖雌馬に2000~3000IU のhCGを血管内投与すると排卵誘発作用を示すことが報告され, 交配の6時間前の投与が推奨されていました。
これまでの報告ではhCG投与後36±4時間で排卵が認められると記載されています。投与量は最小で750IUでの排卵誘発作用が報告されており, 一般的には1500-3000IUが投与されているようです。5000IU以上の投与では繁殖成績への悪影響が報告されています。また, hCGは効果的な薬剤ですが, 分子量が大きく, ヒト由来の糖タンパクホルモンであるため, 馬の生体内に抗体が産生され, その後の投与では排卵誘発作用が減じると考えられています。
交配後予定した時期までに排卵が認められないという臨床上の問題を避けるために, 排卵誘発剤としてヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(Human Chorionic Gonadotropin,hCG) 製剤または性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gonadotropin Releasing Hormone,GnRH) 製剤を投与する方法が一般的に知られています。
排卵誘発剤を使用することで, 交配適期を人為的に調節することが可能であり, 交配後適切な時間内での排卵を期待することができると思います。排卵誘発剤を使用することで高い交配後排卵率が得られれば, 受胎率の向上, 種付け回数の減少が期待でき, 効率的な繁殖管理が可能だと考えています。
hCG製剤の排卵誘発剤としての有用性は古くから報告されていました。
これまでの報告では,hCG製剤の投与後48時間以内に73-89%の繁殖雌馬で排卵が認められています。GnRH製剤もhCG製剤と同様に排卵誘発剤として使用されています。
過去の報告ではGnRH製剤の単回投与では血中の黄体形成ホルモン(Luteinizing Hormone,LH) 濃度を上昇させるが, 引き起こされるLHのピークは排卵を誘発するには十分ではないため, 排卵誘発作用を示さないとされていました。
しかし, GnRH製剤を複数回投与することで排卵誘発作用を得ることができ, さらに,近年ではGnRH 類似体のデスロレリンの単回筋肉内投与により高い排卵誘発作用が期待できることが報告されています。しかし, デスロレリンは国内では販売されておらず, 臨床現場では入手経路が制限されています。
過去の報告ではGnRH製剤の単回投与では血中の黄体形成ホルモン(Luteinizing Hormone,LH) 濃度を上昇させるが, 引き起こされるLHのピークは排卵を誘発するには十分ではないため, 排卵誘発作用を示さないとされていました。
しかし, GnRH製剤を複数回投与することで排卵誘発作用を得ることができ, さらに,近年ではGnRH 類似体のデスロレリンの単回筋肉内投与により高い排卵誘発作用が期待できることが報告されています。しかし, デスロレリンは国内では販売されておらず, 臨床現場では入手経路が制限されています。
私が馬の獣医師となった13年前には一部の地域では習慣的に交配直前もしくは交配後にhCG製剤を排卵誘発剤として投与していました。
しかし, hCG製剤投与において,投与後36時間前後で排卵が起こることが知られており, 交配から排卵までのタイムラグを短くするためには交配に先立ちhCG製剤の投与が行われるべきだと考えられます。
また, 排卵誘発剤を投与することで全ての個体で排卵が起こると誤認している場合もあるため, 正しい情報が生産牧場の方々に伝われば、より効果的に使用できる考えていました。
つづく
しかし, hCG製剤投与において,投与後36時間前後で排卵が起こることが知られており, 交配から排卵までのタイムラグを短くするためには交配に先立ちhCG製剤の投与が行われるべきだと考えられます。
また, 排卵誘発剤を投与することで全ての個体で排卵が起こると誤認している場合もあるため, 正しい情報が生産牧場の方々に伝われば、より効果的に使用できる考えていました。
つづく
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