近位種子骨に認められるX-ray所見と競走成績の相関(Spike-Pierce and Bramlage 2003)

はじめに

今回は1歳サラブレッドの近位種子骨に認められるX-ray所見と競走成績の相関について調査した論文を紹介します。
レポジトリーの中でも、調教師さんなどからの注目が特に高い所見として、近位種子骨の血管陰影が挙げられます。
この所見は ”種子骨に鬆が入っている” と言われることが多く、気にされる所見の1つになります。

今回、ご紹介する論文は2003年にEquine Veterinary Journalに掲載されて論文であり、
種子骨の血管陰影が将来の競走成績に影響を与えることを示しました。


多くの購買者および関係者の皆様にとって興味深い内容だと考えられるため、
取り上げてみました。


論文

それでは早速Summaryを和訳してみたいと思います。

研究背景; 1歳サラブレッドの近位種子骨炎は一般的に認められるX-ray所見の1つであるが、その診断については定義が曖昧である。本研究では近位種子骨に認められる所見を分類し、それぞれについて2-3歳時の出走率、獲得賞金、出走回数についての影響を検討した。


仮説;1歳時に中程度から重度の近位種子骨炎が認められた馬では、2-3歳時のパフォーマンスが低下すると考えられる。


方法; 487頭の1歳サラブレッドのX-ray画像を調査した。近位種子骨における7つのX-ray所見について分類し診断した。このうち5つの所見は近位種子骨の血管陰影の形と本数についてであり、2つについては近位種子骨の軸外の形状についての所見である。2-3歳時の競走成績についても調査し、出走回数と獲得賞金について記録した。


結果; 血管陰影については2mm未満の幅で平行に走行しているものに関しては本数に関係なく正常であった。異常な線状陰影 (平行に走行していない/幅が2mm以上) が認められた1歳馬では対照群と比較し2歳時の出走回数が少なかった。この結果と同様に前肢もしくは後肢の種子骨において異常な血管陰影が認められた馬では対照群と比較し2歳時の出走率および獲得賞金が少なかった。前肢と後肢のいずれの近位種子骨においても異常な線状陰影が認められる馬では対照群と比較しパフォーマンスに差が認められなかった。異常な線状陰影が3本以上認められた1歳馬では2-3歳時における出走回数および獲得賞金が対照群に比較し低下した。近位種子骨の形はパフォーマンスに影響を与えなかった。


結論;1歳時に近位種子骨に拡張した線状陰影を有する馬では対照群に比較し出走回数、獲得賞金が少ないことが示された。


潜在的関連性1-2本の異常な線状陰影は2歳時にパフォーマンスに影響を与えた。3本以上の異常な線状陰影は2-3歳時のパフォーマンスに影響を与えた。若齢馬の購入に際してのX-ray検査および診断には上記の結果を考慮に入れるべきである。

以上が和訳引用になります。

さて、この論文の結果についてですが、
この論文では異常な線状陰影が2-3歳時のパフォーマンスに影響を与えています。
この結果はわかりやすく、受け入れやすい結果だと思います。

しかし、他の研究ではなかなか同様の結果を得ることができません。
過去の記事でも記載していますが、1歳馬の近位種子骨の異常な線状陰影と競走成績に関する相関は他の3つの論文では認められていません。

これは、この論文がより厳密な診断を実施しているからという可能性もあります。
この論文では1-2本の異常な線状陰影が認められた馬は15.6%であり、Jacksonら (2009)やKaneら (2003)の論文と比較すると低い割合を示します。
また、3本以上の異常な線状陰影が認められるのは2.1%であり、同様に他の論文よりも低い値を示しています。
宮越ら(2017)の論文ではこの論文とほぼ同様の発生率を示していますが、出走率への影響は認められませんでした。
このような背景から、私は異常な線状陰影が明らかにプアパフォーマンスと相関しているというにはエビデンスレベルが低いと考えています。

また、この論文のもっとも大きな限界点としては例数の少なさだと考えられます。
この論文では3本以上の異常な線状陰影を有する馬の割合は2.1%ですが、実頭数はたったの10頭です。この10頭の成績から今回の論文の結果は示されています。
このため、この論文の結果はより大規模な調査により追調査される必要があると考えています。

まとめ

私は現在のところ、近位種子骨の異常な線状陰影はそれほど深刻な所見だとは考えていません。臨床症状を有していない(患部に腫脹や熱を伴わない)異常な線状陰影は購入を控える理由にならないと考えています



0 件のコメント :

コメントを投稿