はじめに
今回はアメリカでのサラブレッド種1歳馬のX-ray検査による四肢のX-ray所見の発生率について調査した論文を取り上げます。
今回取り上げる論文は
”Kane, A. J., Park, R. D., McIlwraith, C. W., Rantanen, N. W., Morehead, J. P., & Bramlage, L. R. (2003). Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales. Equine Veterinary Journal, 35(4), 354-365.”
です。
今回、紹介する論文は、初めて大規模に1歳馬で認められるX-ray所見の発生率について調査した論文であり、この分野における手本とも言える論文になります。
この論文は馬獣医師にはおなじみの
Equine Veterinary Journal に掲載されました。
それではSummaryを和訳して引用してみます。
”研究理由;
近年、セール上場前に実施されるレントゲン検査は1歳サラブレッドにとって一般的になりつつある。
目的;
1歳馬がセール前もしくは落札後に実施されたレントゲン検査における球節、腕節、飛節、後膝、そして蹄におけるレントゲン所見の発生率と分布を明らかにすること。
方法;
本調査では前肢球節 (1127例)、後肢球節 (1102例) 、腕節 (1130例)、飛節 (1101例)、後膝 (660例)、そして蹄 (300例)について調査した。各関節に認められたレントゲン所見について分類し、その位置および形状(透亮像、骨片など) について記録した。
結果;
前肢の球節では第一指骨の背側の骨片が1.6%で認められ、第一指骨の掌側の骨片が0.5%で認められた。後肢の球節では、第一趾骨の背側の骨片が3.3%、底側の骨片が5.9%で認められた。
前肢の第三中手骨、背側における透亮像もしくは骨片は2.8%で認められ、後肢の第三中足骨では同様の所見が3.2%で認められた。
ほとんど全ての1歳馬 (98%) において、近位種子骨に血管陰影が認められ、異常な血管陰影 (幅2mm以上もしくは平行ではない)の発生率は79%であったが、正常な血管陰影は56%であった。
脛骨の中間稜の骨片は飛節でもっともよく骨片が認められた (4.4%)。
結論;
サラブレッド1歳馬では近位種子骨の血管陰影のように高い発生率を示す所見も認められたものの、骨片や透亮像などの所見は発生率が5%未満であり、稀な所見であった。
潜在的な可能性;
獣医師は1歳サラブレッド種馬をセールの前後にX-rayを撮影する場合、X-ray所見が認められることを予期すべきだ。
いくつかの希少なX-ray所見が健常や競走成績に影響を与えるか、特に臨床症状を示さない場合には影響を与えるのかについて今後、研究によって明らかにされる必要がある。”
かなりシンプルな結論になっていますね。
この論文では多くのX-ray所見について、その発生率を明らかにしています。
特に注目すべき点は、
近位種子骨の ”異常な線状陰影” がとても多くの1歳馬に認められる点だと思います。
調教師さんや馬関係者の方はこの近位種子骨の "異常な線状陰影" を気にする場合が多いためです。
”異常な線状陰影” が正常な線状陰影よりも多く認められることをぜひ把握してみてください。おそらく臨床的に問題となるのは "異常な血管陰影" のうちごく一部でしょう。
本当にその馬の "異常な血管陰影" が将来の跛行の原因となるのか?
明確な答えは準備できません。
ただ、セール上場時の臨床症状については正確に把握すべきだと考えています。
まとめ
- 多くのX-ray所見の発生率は5%未満
- 1歳馬の多くは1つ以上のX-ray所見を有している可能性が高い
この論文でも十分に興味深い内容だと思いますが、
この論文には各X-ray所見と競走成績の相関について検討したPart.2があります。
近日中にPart.2についても取り上げる予定です。
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