要約
腕節の剥離骨折は2歳馬のレポジトリーで稀(1%)に認められます。
統計上は出走率に影響を与えません。
しかし、過去の報告では剥離骨折の部位により術後成績に差があり、部位によっては予後が悪いことが知られています。
はじめに
腕節の剥離骨折は1歳馬のレポジトリーにおいてもごく僅かに認められました。
2歳になり、トレーニングセールに向け調教を進めている馬では、1歳馬と異なり腕節の剥離骨折のリスクが高まります。
これまでに私自身が診療した馬の中にも、トレーニングセールに向けた調教中に腕節の剥離骨折を発症し手術が必要となった症例に何度か遭遇しています。
1歳馬のレポジトリーでの腕節の剥離骨折については過去の記事を参考にしてください。
それでは2歳馬のレポジトリーについて調べていきますね。
腕節の剥離骨折
まずは腕節の剥離骨折のX-ray画像を確認しましょう!
白矢印で示しているのが腕節の剥離骨折になります。
ここでの骨折片は橈側手根骨の遠位、背側になります。
橈骨−手根骨関節(写真では上に見える関節)での剥離骨折に比較し、手根骨間関節の剥離骨折の方が一般的に予後が悪いことが知られています。
それでは腕節の剥離骨折の発生率について確認してみましょう!
まずは日本国内の2歳馬トレーニングセールのレポジトリーについて調査したMiyakoshiらの報告(2016)から確認します。
Miyakoshiらの報告 (2016)では638頭の調査対象のうち、7頭で腕節の剥離骨折が認められ、発生率は1.1%になります。
米国の2歳馬トレーニングセールについての調査 (Meagher et al. 2013) も確認してみました。が・・・。米国のトレーニングセールでは腕節の剥離骨折は認められませんでした。これは剥離骨折が認められた場合はセールを欠場しているのかもしれませんね。
実際にどうかはわかりません。あくまでも私の推測ですが。
では、1歳馬のレポジトリーはどうだったのでしょう?
1歳馬のレポジトリーでは腕節の剥離骨折の発生率は0.7-0.8%でした。
このため、トレーニングセールの上場馬の発生率とほぼ同程度だと考えられます。
この結果だけをみると、
トレーニングセールに向けた調教後も腕節の剥離骨折の発生率は増加してはいません。
これは、トレーニングにより腕節の剥離骨折を発症した症例では、強く臨床症状を示し、
トレーニングセールを欠場しているからかもしれません。
それでは、レポジトリーで認められた腕節の剥離骨折がパフォーマンスに与える影響についても確認しましょう!
米国での調査(Meagher et al. 2013) ではこの所見が認められませんでした。
日本国内の調査(Miyakoshi et al. 2016) では2歳時および2-3歳時の出走率について検討しています。
腕節の剥離骨折が認められた7頭は2歳時での出走率が100%、そのため、2-3歳時での出走率も100%となります。
この結果は意外です。
まさか、2歳のうちに全ての馬が出走しているとは驚きです。
ただし、実際の獲得賞金等については調査されていないため、この点には注意が必要だと思います。
1歳馬のレポジトリーについての論文の結果では、
米国の調査 (Kane et al. 2003)および日本国内の調査 (Miyakoshi et al. 2016) のいずれにおいても腕節の剥離骨折は将来の競走成績に影響を与えませんでした。
これらの結果から、
腕節の剥離骨折は2歳のレポジトリーで認められたとしても、出走への影響は軽微であると考えられます。
しかし、腕節の剥離骨折は関節鏡手術が必要な所見だと考えています。
そのため、関節鏡手術に伴う手術費用が必要です。
そして、その後のリハビリにも一定期間、時間が必要だと考えられます。
最後にちょっと古い論文からですが、
腕節の剥離骨折における関節鏡手術後の成績についてお示しいたします。
下記に示すのは
腕節剥離骨片の関節鏡手術後に手術前と同程度、もしくは手術前以上のクラスで競走することのできた馬の割合になります。
・橈側手根骨 遠位; 55.4%
・中間手根骨 遠位; 100%
・第三手根骨 近位; 58.8%
・橈骨 遠位 ; 74.2%
・中間手根骨 近位; 61.5%
・橈側手根骨 近位; 75.0%
この数字から、2歳馬のレポジトリーで橈側手根骨の遠位、第三手根骨の近位の剥離骨折は特に注意が必要だと思います。
まとめ
2歳馬のトレーニングセールで認められる腕節の剥離骨折は
・1%程度の発生率
・統計上は出走率に影響なし
・剥離骨折の部位により予後に差がある
と考えています。
参考文献
Meagher, D. M., Bromberek, J. L., Meagher, D. T., Gardner, I. A., Puchalski, S. M., & Stover, S. M. (2013). Prevalence of abnormal radiographic findings in 2-year-old Thoroughbreds at in-training sales and associations with racing performance. Journal of the American Veterinary Medical Association, 242(7), 969-976.
MIYAKOSHI, D., SENBA, H., SHIKICHI, M., MAEDA, M., SHIBATA, R., & MISUMI, K. (2016). A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories of 2-year-old Thoroughbred in-training sales in Japan. Journal of equine science, 27(2), 67-76.
Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales." Equine Veterinary Journal 35.4 (2003): 354-365.
Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance." Equine veterinary journal 35.4 (2003): 366-374.
Jackson, Melissa, et al. "A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings." Rural Industries Research and Development Corporation. Publication 09/082 (2009): 09-082.
McIlwraith, C. W., Yovich, J. V., & Martin, G. S. (1987). Arthroscopic surgery for the treatment of osteochondral chip fractures in the equine carpus. Journal of the American Veterinary Medical Association, 191(5), 531-540.
Miyakoshi, Daisuke, et al. "A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan." Journal of Veterinary Medical Science 79.11 (2017): 1807-1814.
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