1歳馬のレポジトリー; 後膝; 大腿骨のOCD

要約

大腿骨外側滑車のOCDはレポジトリー提出資料では比較的、よく認められるX-ray所見の一つになります。

病変は関節鏡手術により摘出することができます。

予後については、レポジトリーの論文では競走成績とこの所見との相関がそれほど認められません。
ただし、広範囲の病変を示すものでは、予後は悪いと考えられます。


大腿骨外側滑車のOCD







2つの図では大腿骨、外側滑車の黄色丸で囲んでいるのがOCDの病変になりますね。
X-rayでは2箇所の病変があり、中程度の範囲で病変が認められるのがわかります。

大腿骨のOCDは外側滑車に認められることが多い病変です。
今回の記事ではこの外側滑車のOCDについて調査してみました。


それでは各論文で発生率について確認してみましょう!


Kane らによるアメリカの調査(2003) では、
大腿骨の外側滑車のOCDは5.1%の発生率であったと報告されています。

Jackson らによるオーストラリアの調査 (2009) では、
大腿骨の外側滑車のOCDは3.8%の発生率であったと報告されています。

日本国内で行われたMiyakoshiらの調査 (2017) では、
後膝は調査対象とされていませんでした。そのため、発生率については不明です。

発生率についてのまとめです。
大腿骨外側滑車のOCDは3.8-5.1%で認められると考えられます。
比較的発生頻度としては高いことがわかりますね



それでは、先に示した論文で競走成績との相関関係について確認しましょう!


Kaneらにより行われたアメリカでの調査 (Kane et al. 2003)では、
出走率に加えて、入着率、獲得賞金および1回出走あたりの獲得賞金との相関関係について調査を行なっています。

外側滑車のOCDが認められた馬では
2-3歳時の出走率が71%であり、対照群(85%)の出走率との間に統計的な有意差は認められません。また、他の調査項目についても所見に有無による差は認められませんでした。

つまり、Kaneらの調査では外側滑車のOCDは、
将来の競走成績と相関関係がないと考えられます。

それではオーストラリアの調査 (Jackson et al. 2009) についても確認しましょう!

この論文では出走率、入着率、獲得賞金、1回出走あたりの獲得賞金等についてX-ray所見との相関を検討しています。

この論文では外側滑車のOCDの有無の調査に加え、
OCD病変の大きさ(<20mm, 20-40mm, >40mm)による分類を行い、それぞれの調査項目との相関についても検討しています。

その結果、

外側滑車のOCDが認められる馬では対照群に比較し、有意に入着率が低いことが示されました。(OCD有; 24.1%、対照群; 31.4%)

また、

<20mmの外側滑車のOCDが認められる馬では、対照群に比較し、初出走日が中央値で70日ほど遅れること (P=0.02) が明らかとなりました。

以上の結果から、外側滑車のOCDは競走成績との負の相関が一部で認められたと報告されています。

競走成績との相関についてまとめます。
Kaneらの論文では調査頭数が600例程度と少なかったため、有意な差を示さなかった可能性は否定できません
Jacksonらの報告が示すようにやや入着率が低い可能性が有ります。
ただし、競走成績として重要な出走率、獲得賞金については差が認められないことを忘れてはいけません。
基本的には深刻な影響を与えるような所見ではないと考えられます。

大腿骨、外側滑車のOCDは、関節鏡手術による摘出が可能です。
関節の腫脹などの臨床症状が認められた場合には、手術による病変の摘出が推奨されます。

手術成績についても確認しておきます。

Folandらの報告 (1992)では、大腿骨、外側滑車のOCDが認められた134頭の手術後の調査を実施しています。134頭のうち79頭は競走馬、55頭は競走馬ではありません。
86頭 (64%) は目的とする使役に復帰することができました。
9頭 (7%) は現在トレーニング中、21頭 (16%)は復帰することができませんでした。
18頭 (13%) は外側滑車のOCDとは無関係の要因により元の使役に復帰することができませんでした。

また、病変が<20mmの場合は78%の馬が元の使役に復帰できましたが、
20-40mm、>40mmではそれぞれ復帰率は63%54%でした。

この報告からは飛節の関節鏡手術の術後成績に比較すると、
やや予後が悪いことがわかります。
特に病変範囲の広いものでは注意が必要かと思われます

このようにいくつかの論文を確認してきましたが、
いまいち、結果に統一感がありません

個人的な考えとしては、
よほど広範囲におよぶ病変でなければ、術後問題になることはなかったと記憶しています。広範囲に及ぶ病変については、積極的な購買は正直、お勧めはできません

また、X-rayで軽度から中程度の所見が認められても、実際には臨床症状を示さない馬も一定割合で存在するため、購入価格が折り合うようであれば、購入対象としても良いのではないかと考えております。



最後にSantschi先生がAAEPで講演した抄録 (2013) での外側滑車のOCDに関する部位を確認しておきましょう!


この抄録では、外側滑車のOCDは馬主および転売者にとっても予後が良好であると記載されています。

ただし、病変が広範囲に及ぶものについては例外であり、大腿骨、外側滑車のOCDのうち、病変が広範囲に及ぶものでは予後が悪いと記載されていますので注意してください。




まとめ



大腿骨の外側滑車のOCDは

・5%程度の発生率
・関節鏡手術により病変は摘出可能
・軽度から中程度の病変では予後に与える影響は限定的
・重度の病変では予後は悪い

と考えられます。



参考文献



Santschi, E. M. (2013). How to Interpret Radiographs of the Carpus and Tarsus of the Young Performance Horse. In Proc Am Assoc Equine Pract (Vol. 59).

Foland, J. W., McIlwraith, C. W., & Trotter, G. W. (1992). Arthroscopic surgery for osteochondritis dissecans of the femoropatellar joint of the horse. Equine veterinary journal, 24(6), 419-423.

Kane, A. J., Park, R. D., McIlwraith, C. W., Rantanen, N. W., Morehead, J. P., & Bramlage, L. R. (2003). Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales. Equine Veterinary Journal, 35(4), 354-365.

Kane, A. J., McIlwraith, C. W., Park, R. D., Rantanen, N. W., Morehead, J. P., & Bramlage, L. R. (2003). Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance. Equine veterinary journal, 35(4), 366-374.


Jackson, M., Vizard, A., Anderson, G., Clarke, A., Mattoon, J., Lavelle, R., ... & Whitton, C. (2009). A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings. Rural Industries Research and Development Corporation. Publication, (09/082), 09-082.


Miyakoshi, D., Senba, H., Shikichi, M., Maeda, M., Shibata, R., & Misumi, K. (2017). A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan. Journal of Veterinary Medical Science, 79(11), 1807-1814.

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