はじめに
今回はレポジトリーとは少し離れて、馬の疝痛に関する論文を紹介します。
このブログのメインテーマとは離れてしましますが、
馬の疝痛は私の診療範囲でも重要な領域の1つです。
論文
今回紹介する論文は、腹水中の乳酸値について調査し、その予後診断マーカーとしての可能性について述べています。
それでは早速、論文のSummaryを和訳してみます!
Van den Boom, R., C. M. Butler, and M. M. Sloet van Oldruitenborgh‐Oosterbaan. "The usability of peritoneal lactate concentration as a prognostic marker in horses with severe colic admitted to a veterinary teaching hospital." Equine Veterinary Education 22.8 (2010): 420-425.
Summary疝痛はウマの生命を脅かす疾患であり、手術必要の判断および予後診断に際して信頼できる指標が必要である。
本研究の目的はウマ腹水中乳酸値が疝痛により来院したウマに対して、手術必要の判断および予後診断指標としての有用性を検討することである。
16ヶ月の調査期間中、Utrecht Univercity のウマ病院には760頭の疝痛症例が来院し、そのうち、74頭の腹水中乳酸値を測定した。乳酸値の測定には携帯測定器を用いた。
非生存馬では、心拍数、腹水中乳酸値、血中乳酸値および血中グルコース濃度が生存馬と比較し有意に高い値を示した。腹水中乳酸値が9.4mmol/l以上の症例では生存したウマは存在しなかった。
絞扼性病変は有意に非生存と関連性が認められた。また、腹水の色調にも有意に影響を与えた。本調査では赤色腹水の症例では生存したものは認められなかった。
黄色の腹水が認められた症例では、絞扼性病変を有する場合、血中グルコース濃度の上昇が認められた。
腹水中乳酸値は携帯型測定器により簡単に素早く測定することができ、疝痛発症馬の予後および手術必要の有無を判断する上で有用な評価基準となり得る。
感想
血中乳酸値は国内においてもその有用性が認識され、この論文が発表される以前より、各診療施設により疝痛発症馬に対して測定されてました。この論文では腹水中乳酸値が血中乳酸値に比較しより正確に予後および手術必要の有無を判断できる可能性が示されています。
実際の臨床現場では、疝痛馬の腹水を採取するのは容易ではありません。
1次診療の現場(牧場)で疝痛馬の腹水を採取するのは非常に困難だと考えられます。
また、2次診療施設においても疝痛症状を示している馬から腹水を採取するのは難しいでしょう。
しかし、軽度な疝痛や慢性疝痛の症例では腹水を採取することで今後の治療方針決定の判断材料の1つとすることが可能だと思います。
絞扼性病変としては最も遭遇率の高い結腸捻転であれば、腹腔内を気張した結腸および盲腸が占めており、全身麻酔前に腹腔穿刺を行い、腹水を採取するのはリスクが高いと考えられます。
しかし、予後判定としては有用な指標になり得ると考えられます。
今後、個人的には結腸捻転症例に対する結腸切除適応を判断する際の指標として活用できないか検討していきたいと考えています。
補足になりますが、腹水中の乳酸値が9.4以上の症例であっても生存した症例は経験しています。
腹水中乳酸値が10mmol/lだとしても生存する可能性は残されているので、予後について他の所見を含めて判断すべきですね。
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