はじめに
大腿骨のボーンシストはレポジトリーでも注意される所見の1つになります。北海道市場では、レポジトリー導入時には後膝のX-ray画像は提出できませんでしたが、
数年前から購買者の要請に応じる形で後膝のX-ray画像が提出できるようになりました。
このような背景からも大腿骨のボーンシストが購買者からも注目されている所見だというのがわかります。
大腿骨のボーンシストによる跛行が発症した場合、
治療方針は4つの選択肢があると考えられます。
保存療法、関節鏡によるデブライドメント、病巣内へのステロイド注入、そして螺子挿入の4つの選択肢ですね。
今回の記事では
・関節鏡によるデブライドメント(掻爬)
・病巣内へのステロイド注入
について取り上げます。
関節鏡手術によるデブライドメント(掻爬)
この治療方法は関節鏡でボーンシストの内容および辺縁を取り除く手術になります。調教復帰までの期間は最低でも4ヶ月、平均では7.5ヶ月必要だと考えられています。
Lewisらの報告 (1987)では、67例の大腿骨ボーンシストの症例に対して関節鏡による掻爬術が実施され、目的とする使役に復帰できたのは72%でした。
しかし、競走馬と目的としていた馬に限ってみると39%は競走に出走することができませんでした。そのため、競走馬を対象とした場合の治癒率は61%と考えられます。
この報告では、治療が成功しない要因として、競走馬としての使役が目的、変形性関節炎、ボーンシストの開口部が関節面に存在が挙げられています。
Sandlerらの報告 (2002)では、150例の大腿骨ボーンシストに対して関節鏡での掻爬術が実施されました。150例中64例では左右の大腿骨にボーンシストが存在し、両側の手術が実施されました。この論文では調査対象はサラブレッド種競走馬のみであり、我々にとって非常に参考になるかと思います。
手術後の出走率は64%でした。
特に興味深い点としては関節面における軟骨損傷が15mm以下の症例では出走率が70%であったのに対して、15mmより大きい症例では出走率は約30%となり、関節面での軟骨損傷の程度が予後に影響を与えると考えられます。
Smithらの報告 (2005)では、85例の大腿骨ボーンシストに対して関節鏡での掻爬術を行いました。0-3歳馬では64%が目的とする使役を行えたが、4歳以上の馬では35%のみが目的の使役に復帰することができたと報告されており、年齢が予後に影響を及ぼす1つの要因であると報告しています。
まとめです。
大腿骨ボーンシストに対して関節鏡での掻爬術を選択した場合、競走馬としての出走率は60%程度なると考えられます。また、大きなボーンシストは予後に悪影響を与えることが予測されます。
大腿骨ボーンシスト内へのステロイド注入
この方法はボーンシスト内部にトリアムシノロンなどのステロイドを注入する方法です。エコーガイド下で行う方法と関節鏡下で行う方法があります。また、立位鎮静下で実施する方法もあります。
この方法の大きな利点としては順調であれば2ヶ月で調教復帰できるという点です。
Wallisらの報告 (2008)では、52例の大腿骨ボーンシストに対して関節鏡下でステロイド注入を実施しました。
その結果、35例(67%) で成功したと報告しています。また、5例に関しては跛行などはないが他の要因により調査時に目的とした使役に復帰していないため、この5例も含めると、40例 (77%)で良好な結果が得られたと報告しています。
また、サラブレッド種に限っては20例中18例 (90%)で良好な予後が得られました。
まとめです。
ステロイド注入法は掻爬術に比較し早期に運動復帰できるメリットがあります。復帰率も90%と良好だと考えられます。
まとめ
さて、上記までが論文からの情報になります。そしてここからは私の個人的な意見です。
私自身はどちらの治療方法も経験があります。
個人的にはボーンシストが小さめのものはまずステロイド注入を推奨しています。
ステロイド注入後も臨床症状が良化しない、もしくは跛行が再発する場合は掻爬術を選択します。
ステロイドが入らないような小さなシストも掻爬術を勧めます。
掻爬術は復帰までの時間が必要なため、丁寧な説明が必要不可欠ですね。
ちなみにステロイド注入はこの論文ほどは良い結果が得られるとは考えていません。
もしかすると、比較的軽度なもののみがステロイド注入で治療され、バイアスがかかっているのでは?と考えてしまいます。
いずれにせよ、大腿骨のボーンシストは厄介な症例です。
そのため、新しい治療法として螺子挿入法が開発されています。
螺子挿入法についてはまた別の機会に記事にいたします。
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