はじめに
以前の記事で大腿骨ボーンシストの治療について記載していました。
ボーンシストの治療方法としては、
以前の記事でも書いたように、
・ステロイド注入
・関節鏡手術による掻爬術
がこれまで主に選択されてきました。
これまでのこの2つの選択肢に加えて、
2014年にVeterinary Surgeryに新しい治療方法の論文が掲載されました。
この論文に記載された螺子挿入術は興味深い方法だと思いますので、
今回、紹介したいと思います。
論文
今回、紹介するのは以下の論文です。
Santschi, E. M., Williams, J. M., Morgan, J. W., Johnson, C. R., Bertone, A. L., & Juzwiak, J. S. (2015). Preliminary investigation of the treatment of equine medial femoral condylar subchondral cystic lesions with a transcondylar screw. Veterinary Surgery, 44(3), 281-288.
それでは、まず、
論文のAbstractを和訳してみます。
目的;大腿骨内側顆のボーンシストによる跛行を呈する症例に対して、ボーンシストを跨ぐように螺子を挿入した場合のX-ray画像および臨床症状の治癒について
研究デザイン;回顧的調査
対象動物;大腿骨内側顆により跛行を呈する馬 (20頭)
方法;大腿骨内側顆のボーンシストにより跛行を呈した馬に対してボーンシストを跨ぐように4.5mm皮質骨螺子をラグスクリュー法で挿入した。手術後のX-ray検査および跛行検査を30-60日毎に術後120日まで実施した。X-ray検査ではボーンシストのエリアそして跛行検査では跛行の程度をグレーディングした。手術後120日で跛行が消失し、尾→頭方向のX-rayでボーンシストのエリアが治療前に比較し50%以上減少していた場合を治療が成功したと定義した。
結果26肢に手術を実施した。9頭(11肢)には補助として生物製剤をシスト内に注入した。術後60日で18頭の馬では跛行のグレードが1もしくは2減少した。術後120日では15頭で跛行が消失し、X-ray画像でのシストが50%以上縮小し、目的の使役に供されている。生物製剤は結果に影響を与えなかった。4歳以上の馬では治療成績がよくなかった。
結論;大腿骨内側顆のボーンシストへの螺子挿入術は75%の馬で術後120日でX-ray画像におけるシストの縮小および跛行の消失が認められた。この治療方法は跛行の原因となり得る大腿骨のボーンシストに対して有効であり、特別な器具を必要としない。
以上で引用を終わります。
この方法はインパクトの大きい治療方法だったと思います。
すでに結論でも述べられているように、
・特別な器具がなくても実施可能
・治療期間が短い
という素晴らしいメリットがあります。
これまでにはボーンシスト内に再生因子やゲルを挿入する研究が国内や海外で行われていました。ただ、これらの手術方法では再生因子やゲルを導入する必要があり、ものによっては細胞培養を実施する必要があるなど馬臨床病院にとって非常に導入のハードルが高いものが多かったように思います。
この論文の手技は導入が容易です。
私自身もこれまでに数例実施していますが、これまでの手持ちの手術器具で実施可能であり、予後も比較的良好だと感じています。
今後、さらに頭数を増やすことでこの手技の有用性が評価できると考えています。
この手術方法のもう一つのメリットとしては、
他の部位のボーンシストにも応用可能な点だと思います。
すでにこの手術を開発したチームでは、橈骨近位のボーンシストに対してこの治療方法を適応した論文を発表しています。
弱点としては、
小さめのシストには選択できない点ですね。
まとめ
・ボーンシストに対する螺子挿入術は新しい治療方法・論文では休養期間が短く、復帰率が高い
・国内でも実施可能
・他の部位のシストにも応用可能
・小さいシストは不適応
ですね。
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