はじめに
第一指骨/趾骨の掌側の骨片は1歳馬のレポジトリーでも認められる所見です。1歳馬のレポジトリーにおいてもこの所見は認められています。1歳馬については下記の過去記事に記載しています。
もし、よろしければ読んでみてください。
この所見は比較的、1歳時に手術により摘出されるのは稀だと思います。
基本的にこの所見は将来の跛行の原因にならないと考えているからです。
2歳馬のトレーニングセールにおいてもこの所見は認められます。それでは本文に入ってみましょう!
第一指骨/趾骨 掌/底側の骨片
1歳馬のレポジトリーでこの所見が認められた馬の多くで臨床症状を示すことはありません。また、同様に2歳馬のレポジトリーにおいてもこの所見は問題とならないと考えています。
それでは、X-ray画像を確認します。
黄色の丸で囲まれているのが球節、第一指/趾骨の掌/底側の骨片になります。
このX-ray画像では比較的発見が容易ですが、症例によってはもっと小さく、発見しにくいものもあります。
この角度のX-ray画像では確認できないものの、外→内のX-ray画像で確認できる場合も多いので、いずれのX-ray画像についても注意深く確認することが大切だと思います。
まずは、2歳のトレーニングセールのレポジトリーについて記載された論文から、この所見の発生率について確認してみましょう!
日本国内の2歳トレーニングセールに提出されたX-ray画像について調査したMiyakohsiらの報告(2016)では前肢の第一指骨の掌側の骨片は0.4%の馬で認められ、後肢、第一趾骨の底側の骨片は6.1%の馬で認められたと報告されています。
実は1歳馬のレポジトリーでこの所見が認められる発生率は前肢で0.6%、後肢で4.9%であり、1歳馬のレポジトリーと2歳馬のトレーニングセールのレポジトリーでの発生率はほとんど変わりませんでした。
このような結果から、この所見はトレーニング負荷による発生はほとんどないと考えています。
他のトレーニングセールでのレポジトリーに関する論文も確認します。
米国のトレーニングセール上場馬を対象として論文 (Meagher et al. 2013)では、この所見について調査をしていないため、発生率はわかりませんでした。
この所見は米国での調査では、調査対象となっていないことに加え、国内の論文においてもそれほど重要視されていません。
それでは、競走成績への影響についても論文を確認していきたいと思います。
この所見は、日本国内の論文にのみ記載が認められます。日本国内の調査 (Miyakoshi et al. 2016)では2歳時および2−3歳時の出走率について検討を行なっています。
調査の結果、前肢、第一指骨、掌側の骨片が認められた3頭では、2頭が2歳時に出走し (出走率66.7%)、3頭全てが2-3歳時に出走しました(出走率100%)。これらの結果は対照群と比較し、差が認められませんでした。
後肢、第一趾骨、底側の骨片が認められた40頭では、29頭が2歳時に出走し(出走率72.5%、対照群 78.1%)、2-3歳時では37頭が出走し(出走率 92.5%、対照群96.1%)であり、いずれの期間も出走率は対照群と差がありませんでした。
これらの結果からこの所見が、将来の出走率に影響を与えないと推察することができます。
1歳馬のレポジトリーについて調査した論文においても以下のように競走成績に影響を与えないとの結論が得られています。
- 日本国内の調査 (Miyakoshi et al. 2017)では、出走率との関連性について調査されているが、この所見は出走率に影響を与えませんでした。
- アメリカでの調査(Kane et al. 2003)では、出走率に加えて、出走した馬については入着率、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金についても調査しており、この所見はいずれの調査項目にも影響を与えなかったと報告されています。
- オーストラリアの調査 (Jackson et al. 2009)では出走率に加えて、入着回数、入着率、獲得賞金について検討した結果、第一指/趾骨の掌/底側の骨片はそのいずれについても影響ないと示されています。
この所見は
過去の論文では手術による骨片摘出が有用であると報告されていました。(Whitton & Kannegieter 1994, Fortier et al. 1995)
しかしながら、2014年に報告されたスタンダードブレッドを対象として研究では、この所見を示す馬の手術前後、そしてコントロール群(所見を持たない馬)との比較において、いずれの群でもその走行スピードに有意差がないことが示されています(Carmalt et al. 2014)。
私自身は臨床上、手術は必要ないと考えており、積極的には手術による摘出を推奨していません。
他の部位の骨片摘出術を実施する症例では、ついでに摘出する場合もあります。
まとめ
第一指/趾骨の掌/底側の骨片は
・2歳馬のレポジトリーでもよく認められるX-ray所見の1つ
・出走率には影響なし
・手術で摘出可能だが、手術しなくとも問題ない
だと考えられます。
参考文献
Meagher, D. M., Bromberek, J. L., Meagher, D. T., Gardner, I. A., Puchalski, S. M., & Stover, S. M. (2013). Prevalence of abnormal radiographic findings in 2-year-old Thoroughbreds at in-training sales and associations with racing performance. Journal of the American Veterinary Medical Association, 242(7), 969-976.
MIYAKOSHI, D., SENBA, H., SHIKICHI, M., MAEDA, M., SHIBATA, R., & MISUMI, K. (2016). A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories of 2-year-old Thoroughbred in-training sales in Japan. Journal of equine science, 27(2), 67-76.
Carmalt, J. L., Borg, H., Näslund, H., & Waldner, C. (2014). Racing performance of Swedish Standardbred trotting horses with proximal palmar/plantar first phalangeal (Birkeland) fragments compared to fragment free controls. The Veterinary Journal, 202(1), 43-47.
Fortier, L. A., Foerner, J. J., & Nixon, A. J. (1995). Arthroscopic removal of axial osteochondral fragments of the plantar/palmar proximal aspect of the proximal phalanx in horses: 119 cases (1988-1992). Journal of the American Veterinary Medical Association, 206(1), 71-74.
Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales." Equine Veterinary Journal 35.4 (2003): 354-365.
Jackson, Melissa, et al. "A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings." Rural Industries Research and Development Corporation. Publication 09/082 (2009): 09-082.
Miyakoshi, Daisuke, et al. "A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan." Journal of Veterinary Medical Science 79.11 (2017): 1807-1814.
Whitton, R. C., & Kannegieter, N. J. (1994). Osteochondral fragmentation of the plantar/palmar proximal aspect of the proximal phalanx in racing horses. Australian veterinary journal, 71(10), 318-321.
Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance." Equine veterinary journal 35.4 (2003): 366-374.
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