要約
球節の背側および掌側の骨片は比較的発生率の高い所見です。背側の骨片は手術が必要な場合もありますが、基本的に予後は良好です。
掌/底側の骨片は多くの場合、臨床症状を示さず予後は良好だと考えられます。
いずれの骨片も関節鏡手術での摘出が可能ですので、関節の腫脹などの臨床症状が認められる場合は手術を実施しましょう。
はじめに
レポジトリーに提出されるX-ray画像において球節の骨片は比較的よく認められる所見です。臨床的には、ごく稀に第一指骨/趾骨の背側の大きな骨片で関節の腫脹および屈曲痛、跛行などが認められることがありますが、ほとんどの症例では無症状です。私のこれまでの経験では第一指/趾骨の掌/底側の骨片はほぼ全ての症例で臨床症状を示していませんでした。
競走馬になった後にレースや調教により第一指骨の背側に剥離骨折が認められる症例では多くの症例で関節液の増量、関節腫脹、屈曲痛および跛行が認められると思われますが、1歳馬では同様のX-ray所見が認められても多くの症例で臨床症状を示さないことは不思議ですね。
第一指骨/趾骨 背側の骨片
図の黄色丸で示すのが第一指/趾骨、背側の骨片になります。
黄色丸内に骨片があるのがお判りいただけると思います。
1歳馬ではこのX-ray所見で関節の腫脹等の臨床症状を示すことは稀だと考えています。
もし、臨床症状を示すのであれば、関節鏡手術による骨片摘出術を行うことが推奨されます。
予後は基本的にexcellentになります。
詳細な情報では、
日本国内の1歳馬を調査したMiyakoshiらの報告 (2017)ではこの所見の発生率は、前肢で3.2% (34/1055)、後肢で3.2% (33/1031)と示され、比較的、頻繁に認められる所見であることがわかります。
アメリカでは前肢で1.6% (18/1127)、後肢で3.3% (36/1102) (Kane et al. 2003)、オーストラリアでは前肢で0.7% (18/2401)、後肢で2.2% (53/2401) (Jackson et al. 2009)の割合で1歳馬のレポジトリー提出資料でこの所見が認められることが報告されています。
気になる競走成績への影響についてですが、上記の各論文の結果を確認してみましょう。
日本国内の調査では、2-3歳時の出走率との関連性について調査されています。
前肢ではこの所見が出走率に影響を与えないことが明らかになっています。
後肢にこの所見が認められた33頭の出走率は81.8%であり、この所見が認められなかった馬の出走率93.0%に比較し優位に低い値となりました。
しかし、このX-ray所見が認められ、不出走であった6頭について不出走の原因を追跡調査した結果、全ての馬がこの所見に起因しない原因により出走できなかったことが明らかになっています。ちなみに不出走の原因は喉頭片麻痺、浅屈腱炎、蹄骨骨折、腰萎が各1頭、事故が2頭と報告されています。
アメリカでの調査では、出走率に加えて、出走した馬については入着率、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金についても調査しています。国内での研究結果と同様に前肢ではこの所見は全ての調査項目に影響を与えませんでした。
後肢でこの所見が認められた馬の出走率 (69%) はこの所見が認められなかった馬の出走率 (82%)に対して低い傾向が認められましたが、他の調査項目では差は認められませんでした。
オーストラリアの調査では出走率に加えて、入着回数、入着率、獲得賞金等について検討しており、第一指/趾骨背側の骨片はそのいずれについても影響与えなかったことが示されています。
ちなみに2013年のアメリカ馬臨床獣医師学会においてレポジトリーについての発表が当時オハイオ大学にいらっしゃったElizabeth M. Santschi 先生 によって行われています。
この発表の中でSantschi先生は第一指/趾骨背側の骨片は予後はexcellentだと示しています。
ただし、競走馬として調教していくのであれば骨片は関節鏡手術により摘出するべきだ考えているようです。
私自身は、明らかな症状は認められないものの、手術後にパフォーマンスの向上が認めらたケースを経験しているため、少しでも気になるようであれば手術すべきだと考えています。
第一指/趾骨 掌/底側の骨片
図の丸印で示してる所見が第一指/趾骨の掌/底側の骨片になります。
この所見は主に後肢の第一趾骨、底内側に認められる場合が一般的です。
この所見はOCDなのか過去の骨折なのかは意見が別れるところです。私自身はOCDだと考えています。
この所見は臨床症状を引き起こすことはまずありません。
ただ、X-ray画像での見栄えはよくないと思います。私自身は手術による摘出は積極的には勧めません。しかし、他の箇所で手術を実施するのであれば、せっかくですので摘出しても良いと思います。
予後は手術の有無に関わらず基本的にexcellentだと考えています。
論文からの情報では、
日本国内の1歳馬を調査したMiyakoshiらの報告 (2017)ではこの所見の発生率は、前肢で0.6% (6/1055)、後肢で4.9% (51/1031)です。
アメリカでは前肢で0.5% (5/1127)、後肢で5.9% (65/1102) (Kane et al. 2003)、
オーストラリアでは前肢で0.4% (9/2401)、後肢で6.1% (144/2401)(Jackson et al. 2009)の割合で1歳馬のレポジトリー提出資料にこの所見が認められることが報告されています。
いずれの報告においても前肢での発生率は1%を切る低い値ですが、後肢では5%程度の発生率を示しており、比較的よく認められるX-ray所見であることがわかります。
競走成績への影響についても、上記の各論文の結果を確認してみましょう。
日本国内の調査では、出走率との関連性について調査されているが、この所見は出走率に影響を与えませんでした。
アメリカでの調査では、出走率に加えて、出走した馬については入着率、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金についても調査しており、この所見はいずれの調査項目にも影響を与えなかったと報告されています。
オーストラリアの調査では出走率に加えて、入着回数、入着率、獲得賞金について検討した結果、第一指/趾骨の掌/底側の骨片はそのいずれについても影響ないと示されています。
この所見は過去の論文では手術による骨片摘出が有用であると報告していました。(Whitton & Kannegieter 1994, Fortier et al. 1995)
しかしながら、2014年に報告されたスタンダードブレッドを対象として研究では、この所見を示す馬の手術前後、そしてコントロール群(所見を持たない馬)との比較において、いずれの群でもその走行スピードに有意差がないことが示されています(Carmalt et al. 2014)。
私自身は臨床上、手術は必要ない可能性が高いと考えています。
まとめ
第一指/趾骨の背側および掌/底側の骨片は・1歳馬のレポジトリーでよく認められるX-ray所見の1つ
・競走馬としての予後は良好
・背側の骨片では臨床症状が認められたら手術が必要
だと考えられます。
参考文献
下記に参考文献を示します。興味を持たれた方はぜひ原文を読んでいただければ幸いです。Carmalt, J. L., Borg, H., Näslund, H., & Waldner, C. (2014). Racing performance of Swedish Standardbred trotting horses with proximal palmar/plantar first phalangeal (Birkeland) fragments compared to fragment free controls. The Veterinary Journal, 202(1), 43-47.
Fortier, L. A., Foerner, J. J., & Nixon, A. J. (1995). Arthroscopic removal of axial osteochondral fragments of the plantar/palmar proximal aspect of the proximal phalanx in horses: 119 cases (1988-1992). Journal of the American Veterinary Medical Association, 206(1), 71-74.
Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales." Equine Veterinary Journal 35.4 (2003): 354-365.
Jackson, Melissa, et al. "A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings." Rural Industries Research and Development Corporation. Publication 09/082 (2009): 09-082.
Miyakoshi, Daisuke, et al. "A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan." Journal of Veterinary Medical Science 79.11 (2017): 1807-1814.
Whitton, R. C., & Kannegieter, N. J. (1994). Osteochondral fragmentation of the plantar/palmar proximal aspect of the proximal phalanx in racing horses. Australian veterinary journal, 71(10), 318-321.
Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance." Equine veterinary journal 35.4 (2003): 366-374.
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