はじめに
1歳馬のレポジトリーに提出されるX-ray画像において腕節の骨増生は比較的稀な所見です。そのため、1歳馬のレポジトリーにおける腕節の骨増生の発生率は1.7-3.3%となっています。
これに対して、2歳馬のトレーニングセールのレポジトリーでは腕節における骨増生は1歳時のものに比較し発生率が上昇していることが予想されます。
Dorsal Medial Carpal DiseaseはKaneらの論文で第3手根骨および橈側手根骨における背側骨皮質の肥厚、骨増生および骨片と定義された所見で、騎乗調教前の1歳馬においても認めらレました。この所見も骨増生と同様に運動負荷を加えることで発生率が上昇すると予測されます。
今日は2歳馬のトレーニングセールでのレポジトリーに関する報告から腕節の骨増生について検討していきたいと思います。
腕節の骨増生
すでに1歳馬のレポジトリーの腕節の骨増生の記事でも確認していますが、
もう一度、腕節の骨増生について画像を確認しておきます。
ここで、白矢印で示しているのが、
橈骨遠位の骨増生になります。
この骨増生は他にも、中間手根骨、橈側手根骨および第三手根骨で認められることがあります。
それでは早速、発生率について論文を確認しましょう!
日本国内の2歳馬トレーニングセール提出X-ray画像を調査したMiyakoshiらの論文 (2016)では腕節の骨増生は638頭中35頭で認められ、発生率は5.5%と報告されています。米国内の2歳馬トレーニングセール提出X-ray画像を調査したMeagherらの論文 (2013)
では腕節の骨増生は953頭中19頭で認められ、発生率は2.0%と報告されています。
このような結果から2歳馬トレーニングセールにおける腕節の骨増生は2.0-5.5%の発生率を示すと考えています。
それでは1歳馬のセール提出X-rayではどうだったのでしょう?
1歳馬では腕節の骨増生は1.7-3.3%と報告されています。
これらの結果から、腕節の骨増生は1歳馬での発生率と比較して、2歳馬での発生率は同程度、もしくはわずかに高いと考えられます。
予測としてはトレーニングを受けた2歳馬では1歳馬でのデータと比較し、明らかに高い発生率を示すと考えていたのですが、想像よりも低い発生率となりました。
それでは競走成績への影響についても確認していきます!
まずは日本国内の調査(Miyakohsi et al. 2016)の結果を確認します。この論文では2歳時および2-3歳時の出走率への影響を検討していました。
腕節の骨増生が認められる馬の2歳時の出走率は71.4%であり、対照群の77.1%とほぼ同等の値でした。2-3歳時の出走率は91.4%であり、対照群の95.0%とほぼ同等だと言えると思います。
このため、この論文では腕節の骨増生は競走成績に影響を与えなかったとしています。
米国の報告 (Meagher et al. 2013) の結果も確認します。
この論文では2歳時の出走率に加え、獲得賞金についても検討しています。
調査の結果、腕節の骨増生が認められた馬での出走率、獲得賞金、重賞競走への出走のいずれの調査項目においても対照群と差は認められませんでした。
このような結果からこの論文では腕節の骨増生は競走成績に影響を与えなかったとしています。
このように過去の論文を確認すると、
腕節の骨増生は将来の競走成績に大きな影響を与えないと考えられます。
Dorsal medial intercarpal joint disease
この所見は手根骨の骨増生でもあるのですが・・・。
Dorsal medial intercarpal joint disease はKaneらの報告 (2003)により"橈側手根骨および第三手根骨背側の骨増生。もしくは骨片"として定義されています。
つまり腕節の手根骨間関節の内側での骨増生と骨片ってことになります。
画像を確認しましょう!
この画像では橈側手根骨の背側に骨増生、遠位に骨片が確認できます。
米国の2歳馬のトレーニングセール提出X-ray画像を調査した報告 (Meagher et al. 2013)ではこの所見についてカウントしていませんでした。
しかし、日本国内の2歳馬トレーニングセールについて調査したMiyakoshiらの報告 (2016)ではこの所見についても記載が認められます。
この論文でのDorsal medial intercarpal joint disease は638頭中14頭に認められ、発生率は2.2%となります。
2歳時の出走率は78.6%であり、対照群の76.8%と同等の出走率を示しました。
2-3歳時の出走率は85.7%であり、対照群の95.0%より僅かに低い値を示したものの、統計的な有意差は認められませんでした。
これらの結果より、この論文の結果としては、
Dorsal medial intercarpal joint disease は競走成績に影響を与えなかったとしています。
個人的な考えとしては
臨床的にはDorsal medial intercarpal joint diseaseは若齢競走馬・育成馬で認められるものが多く、慢性的に軽度な跛行が認められる症例が多いと感じています。
そのため、出走できたものの、順調に出走することが難しい可能性があると考えています。しかし、その考えを裏付けるデータは持っていません。
気になるデータとして以下の論文の結果を示します。
これは関節鏡手術後の成績に関する論文の結果です。
腕節剥離骨片の関節鏡手術後に手術前と同程度、もしくは手術前以上のクラスで競走することのできた馬の割合になります。
・橈側手根骨 遠位; 55.4%
・中間手根骨 遠位; 100%
・第三手根骨 近位; 58.8%
・橈骨 遠位 ; 74.2%
・中間手根骨 近位; 61.5%
・橈側手根骨 近位; 75.0%
赤字で示しているのがDorsal medial intercarpal joint diseaseに含まれるヶ所ですが、明らかに他の部位よりも予後が悪いことがわかります。
レポジトリーに関する論文では、競走成績に影響を与えないとの結論が出ましたが、
個人的には注意すべき所見の1つだと考えています。
まとめ
2歳馬のトレーニングセールレポジトリーでの腕節の骨増生は
・2.2-5.0%で認められる。
・将来の競走成績への影響は限定的
・程度と箇所によっては注意が必要
だと考えています。
参考文献
Meagher, D. M., Bromberek, J. L., Meagher, D. T., Gardner, I. A., Puchalski, S. M., & Stover, S. M. (2013). Prevalence of abnormal radiographic findings in 2-year-old Thoroughbreds at in-training sales and associations with racing performance. Journal of the American Veterinary Medical Association, 242(7), 969-976.
MIYAKOSHI, D., SENBA, H., SHIKICHI, M., MAEDA, M., SHIBATA, R., & MISUMI, K. (2016). A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories of 2-year-old Thoroughbred in-training sales in Japan. Journal of equine science, 27(2), 67-76.
Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales." Equine Veterinary Journal 35.4 (2003): 354-365.
Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance." Equine veterinary journal 35.4 (2003): 366-374.
Jackson, Melissa, et al. "A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings." Rural Industries Research and Development Corporation. Publication 09/082 (2009): 09-082.
McIlwraith, C. W., Yovich, J. V., & Martin, G. S. (1987). Arthroscopic surgery for the treatment of osteochondral chip fractures in the equine carpus. Journal of the American Veterinary Medical Association, 191(5), 531-540.
Miyakoshi, Daisuke, et al. "A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan." Journal of Veterinary Medical Science 79.11 (2017): 1807-1814.
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