要約
橈側手根骨の円形透亮像は少なくとも2%程度の2歳馬で認めらますが、基本的に気にするべき所見ではないと考えています。副手根骨の骨折は非常に稀に認められる所見でです。臨床症状がなければ、問題となる可能性は低いと考えていますが、これまで論文に報告された頭数が少なくより信頼性の高い情報が必要です。
はじめに
レポジトリーに提出されるX-ray画像において腕節、尺側手根骨の円形透亮像は多くの症例で認められる所見の1つです。尺側手根骨の円形透亮像は骨嚢胞や骨髄炎と誤解されるケースもありますが、問題となることはありません。
副手根骨の骨折が認められることは非常に稀です。しかもレポジトリーとしてX-rayを撮影されているケースでは臨床症状を示していない場合がほとんどです。特に2歳馬のレポジトリーでは、すでに調教供覧で十分なパフォーマンスを示していることも考慮に入れる出来だと思います。
尺側手根骨の円形透亮像
まず、X-ray画像を確認しましょう!
黒矢印で示すのが、尺側手根骨の円形透亮になります。
腕節の背内側を撮影する角度でこの所見の有無を確認することが可能です。
この所見の1歳馬のレポジトリーでの発生率は
10-25%と程度と高い値を示しています。(Miyakoshi et al. 2017, Kane et al. 2003, Jackson et al. 2009)
1歳馬のレポジトリーでのこの所見と競走成績の関連性では、いずれの論文においても尺側手根骨の円形透亮像は競走成績に負の影響を与えませんでした。
さらに日本国内の調査 (Miyakoshi et al. 2017)では、この所見が認められた馬では2-3歳時の出走率が有意に高いことが明らかになりました。(所見あり; 出走率; 98.2% vs 所見なし; 出走率; 91.3%, P=0.007)
また、オーストラリアの調査 (Jackson et al 2009) では出走率に加えて、入着回数、入着率について検討を行なっています。その結果、尺側手根骨の透亮像が認めらる馬では2歳時、そして3歳時のいずれの期間でも出走した割合がこの所見が認められない馬に比較し有意に高いと報告されています。ここでもこの所見が高い出走率と統計的な関連性を示しました。 (所見あり; 出走率; 41.6% vs 所見なし; 出走率; 35.7% P=0.01)
日本国内の2歳馬トレーニングセールについて調査したMiyakoshiらの調査(2016)では
尺側手根骨の円形透亮像は638頭中8頭で認められ、発生率は1.3%と報告されています。
この発生率は1歳馬のものと比較すると著しく低い値となっています。
これは成長に伴い、透亮像が埋まってきたと考えることが可能かもしれません。
ただ、私個人の考えとしては、1歳馬のレポジトリーに比較し、2歳馬のレポジトリーではこのX-ray画像を腕節の背側を確認するために浅い角度(より外→内方向に近い角度)で撮影しているためだと推察しています。
米国の2歳馬トレーニングセールについて調査したMeagherらの報告(2013)についても確認しましたが、この論文では橈側手根骨の円形透亮像について調査が行われていませんでした。
Miyakoshiらの論文 (2016) では、2歳時の出走率および2-3歳時の出走率について各所見との関連性を検討しています。
尺側手根骨の円形透亮像が認められた8頭では全ての馬が2歳時に出走しました。
このため、いずれの期間においても出走率は100%と記載されています。
この結果は非常に興味深いところです。
1歳馬の調査においても3つの論文のうち2つの論文においてこの所見が認められた馬では対照群に比較して高い出走率を示しました。
トレーニングセールのレポジトリーを調査した論文(Miyakoshi et al. 2016)においても高い出走率を示しています。
本来、レポジトリーに提出されたX-ray画像に関する調査は、X-ray所見は将来の競走成績に影響を与えないという仮説、もしくはX-ray所見は将来の競走成績に負の影響を与えるという仮説を元に研究しています。
しかし、この尺側手根骨の円形透亮像については競走成績に正の影響を与えるという予期していない結果が示され判断が難しいと思います。
ただし、この所見と出走率について関連性があったとしても、実際にこの所見が認められた馬を選んで購買するというのは良い方法とは思えません。
この所見については気にしないのがもっとも正解と考えています。
それでは、2歳馬のトレーニングセールにおいては橈側手根骨の円形透亮像についても論文を確認してみます。
日本国内の2歳馬トレーニングセールについて調査したMiyakoshiらの調査(2016)では
尺側手根骨の円形透亮像は638頭中8頭で認められ、発生率は1.3%と報告されています。
この発生率は1歳馬のものと比較すると著しく低い値となっています。
これは成長に伴い、透亮像が埋まってきたと考えることが可能かもしれません。
ただ、私個人の考えとしては、1歳馬のレポジトリーに比較し、2歳馬のレポジトリーではこのX-ray画像を腕節の背側を確認するために浅い角度(より外→内方向に近い角度)で撮影しているためだと推察しています。
米国の2歳馬トレーニングセールについて調査したMeagherらの報告(2013)についても確認しましたが、この論文では橈側手根骨の円形透亮像について調査が行われていませんでした。
それでは競走成績との関連性についても確認しましょう!
米国の調査(Meagher et al. 2013) ではこの所見について調査が行われていませんでしたので、日本国内の調査(Miyakoshi et al, 2016) の結果について紹介いたします。Miyakoshiらの論文 (2016) では、2歳時の出走率および2-3歳時の出走率について各所見との関連性を検討しています。
尺側手根骨の円形透亮像が認められた8頭では全ての馬が2歳時に出走しました。
このため、いずれの期間においても出走率は100%と記載されています。
この結果は非常に興味深いところです。
1歳馬の調査においても3つの論文のうち2つの論文においてこの所見が認められた馬では対照群に比較して高い出走率を示しました。
トレーニングセールのレポジトリーを調査した論文(Miyakoshi et al. 2016)においても高い出走率を示しています。
本来、レポジトリーに提出されたX-ray画像に関する調査は、X-ray所見は将来の競走成績に影響を与えないという仮説、もしくはX-ray所見は将来の競走成績に負の影響を与えるという仮説を元に研究しています。
しかし、この尺側手根骨の円形透亮像については競走成績に正の影響を与えるという予期していない結果が示され判断が難しいと思います。
ただし、この所見と出走率について関連性があったとしても、実際にこの所見が認められた馬を選んで購買するというのは良い方法とは思えません。
この所見については気にしないのがもっとも正解と考えています。
副手根骨の骨折
まずX-ray画像について確認します。
写真の黒矢印で示すのが副手根骨の骨折線になります。
1歳馬のレポジトリーに関する記事でも書いたのですが、
私はこの所見は骨折と診断しています。ただし、獣医師によっては骨折ではないと考えている人もいます。そのため、アドバイスする獣医師によっては異なる診断名がついているかもしれません。
副手根骨は近位種子骨などと同様に腱や靱帯の繋ぎ目的な役割をしています。
そのため、骨折後の治癒も近位種子骨に近いのか、保存療法の場合、子馬を除き骨折線が閉鎖することはほとんどないようです。そのため、私は治癒過程を判断するためにはX-rayよりも臨床症状が重要だと考えています。
トレーニングセールに上場されている馬は順調にトレーニングを消化しており、実際に調教供覧も実施しています。そのため、著しい跛行を呈する馬は含まれていません。(もちろん調教供覧後に著しい跛行を呈する場合はありますが・・・。)
そのため、レポジトリーで見つかるこの所見は偶発的に発見される所見だと考えており、臨床症状がなければ、現状では問題がない可能性が高いと考えています。
1歳馬のレポジトリーでの結果を振り返ってみると、
発生率は0.2-0.4%(Kane et al. 2003, Miyakoshi et al. 2017) であり、非常に稀な所見であると考えています。
競走成績への影響についても検討されており、2つの論文を合わせて6頭が認められ、そのうち5頭が2−3歳時に出走していました(Kane et al. 2003, Miyakoshi et al. 2017)。ただし、調査頭数が著しく少ないため、信頼性が高いとは言えません。
2歳馬のレポジトリーでの結果も確認します。
米国での調査 (Meagher et al. 2013) では、この所見について記載がないため、情報を得ることができませんでした。
日本国内の調査 (Miyakoshi et al. 2016)では、この所見が2頭に認められ、そのうち1頭が2歳時に出走し、もう1頭は2-3歳時に出走することができませんでした。
ここに示した論文ではいずれも症例数が少ないため、より多頭数における論文が公表されるとより信頼性の高い結果が得られると考えています。
まとめ
・基本的に気にするべき所見ではない
・少なくとも2%程度の2歳馬で認められる
副手根骨の骨折は
・非常に稀
・臨床症状がなければ、問題となる可能性は低い
と考えています。
参考文献
Meagher, D. M., Bromberek, J. L., Meagher, D. T., Gardner, I. A., Puchalski, S. M., & Stover, S. M. (2013). Prevalence of abnormal radiographic findings in 2-year-old Thoroughbreds at in-training sales and associations with racing performance. Journal of the American Veterinary Medical Association, 242(7), 969-976.
MIYAKOSHI, D., SENBA, H., SHIKICHI, M., MAEDA, M., SHIBATA, R., & MISUMI, K. (2016). A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories of 2-year-old Thoroughbred in-training sales in Japan. Journal of equine science, 27(2), 67-76.
Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales." Equine Veterinary Journal 35.4 (2003): 354-365.
Kane, A. J., et al. "Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance." Equine veterinary journal 35.4 (2003): 366-374.
Jackson, Melissa, et al. "A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings." Rural Industries Research and Development Corporation. Publication 09/082 (2009): 09-082.
McIlwraith, C. W., Yovich, J. V., & Martin, G. S. (1987). Arthroscopic surgery for the treatment of osteochondral chip fractures in the equine carpus. Journal of the American Veterinary Medical Association, 191(5), 531-540.
Miyakoshi, Daisuke, et al. "A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan." Journal of Veterinary Medical Science 79.11 (2017): 1807-1814.
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