繁殖牝馬でのPregnancy Loss Vol.2

はじめに

昨日に引き続き、繁殖牝馬のPregnancy Lossについての論文を紹介していきます。

前回の記事では”序章”について紹介しましてので、

今回は論文では”材料と方法”と”結果”について紹介していきたいと思います。

今回、紹介する論文の目的は

”日本の日高地方における Pregnancy Loss の発生率および, その発生に影響を与える雌馬側の要因”

を明らかにすることです。



材料と方法



まずは調査対象について示します。



サラブレッド種 繁殖雌馬, 延べ 1476 頭(3-22 歳)を調査対象としました。
2007 年から 2009 年まで の 3 年間の繁殖成績を調査しています (2007 年:434 頭, 2008 年:563 頭, 2009 年:479 頭)。
1476 頭のうち 843 頭について, 生産の可否について管理牧場および所有者から聞き取り調査を行いました。



調査方法および調査項目についても示します。


サラブレッド繁殖牧場 150 牧場の繁殖雌馬を対象として調査を実施しました。
供試馬は, 交配後初回の妊娠診断 (以下, 初回妊娠診断:交配後日数の中央値は 17 日) に超音波診断装置を用いて受胎と診断された繁殖雌馬です。

その後, 交配後 4-6 週に再度, 超音波診断装置にて妊娠診断を行い (以下, 再妊娠診 断:交配後日数の中央値は 35 日), 交配後 17 から 35 日までの Pregnancy Loss の有無を診断し, さらに翌年, 無事に出生したか聞き取り調査を行いました。

聞き取り調査の有効回答は 843 例でした。
初回妊娠診断で多胎が認められた場合, 全ての症例で経直腸での胎胞破砕による減胎処置を行いました。

本研究では, 交配 後初回妊娠診断では受胎であったが, 交配4-6週の再妊娠診断時に不受胎であ ったものを Pregnancy Loss Days 17-35, 再妊娠診断にて受胎を確認したのち, 生仔が出生しなかったものを Pregnancy Loss Day 35-foaling(生後直死および 分娩中の死亡を含む)として定義し, それぞれの発生率を求めました。

さらに, 交配後初回の妊娠診断から出産までの損耗を Overall Pregnancy Loss といて定義しています。また, 繁殖雌馬の死亡は再妊娠診断から出産までの間に死亡したものと定義しました。


供試馬は, その状態により未経産馬, 空胎馬そして泌乳馬に分類しました。

  1. 未経産馬→受胎, 分娩を経験していない繁殖雌馬
  2. 空胎馬→前年不受胎も しくは前年受胎後妊娠消失を起こした繁殖雌馬
  3. 泌乳馬→調査年に 分娩し, 泌乳している繁殖雌馬



受胎の有無については, 経直腸にて超音波診断装置を用いて診断・記録しました。 超音波画像診断装置に 5MHz リニアプローブを接続し, B モード画像により直腸壁から子宮内の胎子の有無により妊娠診断を実施しました。

Pregnancy Loss の発生に関わる要因を調べるために,以下の項目について調べました。

1) 単胎あるいは双胎の確認
2) 年齢(3-8 歳, 9-13 歳, 14 歳以上)
         と状態(未経産, 空胎馬, 泌乳馬)
3) ボディコンディションスコア(以下BCS)
4) 初回妊娠診断時のプロジェステロン製剤の投薬の有無
      (投薬馬はプロジェステロン製剤200‐300mg (LuteogenRL)を1回筋肉内投与)
5) 初回妊娠診断時の子宮内膜シストの有無
    (直径 10 mm以上の子宮内膜シストが 1 個以上存在した場合を子宮内膜シスト有と定義)
6) 泌乳馬については分娩後 初回発情での交配か否かの確認




結果



Pregnancy Loss の発生率


Pregnancy Loss Days 17-35(初回妊娠診断‐再妊娠診断)の発生率は 5.8% (85/1476), Pregnancy Loss Day 35-foaling(再妊娠診断‐出産)の発生率は 8.7% (73/843)でした。それぞれの Pregnancy Loss の値から算出された Overall Pregnancy Loss(初回妊娠診断‐出産)の発生率は 14.7%.となります。 繁殖雌馬の死亡(再妊娠診断‐出産)の発生率は0.7% (6/843)となりました。

多胎における減胎処置と Pregnancy Loss の関係
初回の妊娠診断の際における双胎率は 11.3% (167/1476) となりました。減胎処置は, 初回の妊娠診断時に行われていました(交配後 14-21 日;中央値 16 日)。Pregnancy Loss Day 17-35 の発生率は, 減胎処置を行った双胎群で 5.4% (9/167), 単胎群では 5.8% (76/1309) となりました。Pregnancy Loss Day 35-foaling の発生率は, 双胎群では 9.0% (9/100), 単胎群では 8.7% (64/737) でした。 Pregnancy Loss Days 17-35 および Pregnancy Loss Day 35-folaing のいずれの 発生率においても, 双胎群と単体群との間に統計学的な有意差は認められませんでした。



雌馬の状態および年齢と Pregnancy Loss の関係

Pregnancy Loss Days 17-35 

Pregnancy Loss Days 17-35 の発生率は, 未経産馬で 1.3% (2/153), 空胎馬で 5.1% (17/331), 泌乳馬で 6.8% (64/944) でした。Chi-square test では, 未経産馬と他の群の間に有意差が認められました(P<0.05)。

Pregnancy Loss Days 17-35 の発生率は, 3-8 歳で 4.0% (27/668), 9-13 歳で 6.7% (36/540), 14-18 歳で 8.5% (22/259)となり, 年齢の増加に伴い発生率も増加しました。

Chi-square test では 3-8 歳のグループと 9-13 歳および 14 歳以 上のグループ間に,Pregnancy Loss Days 17-35 の発生率において有意差が認められました(P<0.05) 。

それぞれの年齢グループにおける未経産馬と空胎馬および泌乳馬の Pregnancy Loss Days 17-35 の発生率を検討したがいずれの統計解析においても有意差は認められませんでした。


Pregnancy Loss Day 35-folaing 


Pregnancy Loss Days 35-foaling の発生率は, 未経産馬で 4.9% (4/81), 空胎馬で 11.1% (22/199), 泌乳馬で 8.3% (43/517)となりました。 
Chi-square test および多変量回帰分析において, Pregnancy Loss Days 35-foaling の発生率に雌馬の状態は影響を及ぼしませんでした。

Pregnancy Loss Day 35-foaling の発生率は, 3-8 歳で 8.3%, 9-13 歳で 8.4%, 14 歳以上で 10.3%となり, Chi-square test ではグループ間で差は認められなか った。多変量回帰分析では, 供試馬の年齢は Pregnancy Loss Day 35-folaing の発生率との有意な関係は認められませんでした。
それぞれの年齢グループにおける未経産馬と空胎馬および泌乳馬の Pregnancy Loss Days 35-foaling を検討すると有意差は認められませんでした。


BCS と Pregnancy Loss の関係

BCSとpregnancy lossの関連性についての検討です。
画像の上段には17-35日でのBCSの変化とPregnancy Lossとの関連を示しました。
BCSの上昇が認められた場合のPregnancy Loss Days 17-35の発生率は、BCSに変化がない群およびBCSが低下した群に比較し有意に低い値を示しました。

画像の下段にはDay35でのBCSと妊娠期の損耗との関連を示しました。

Day35のBCSが5未満の場合、Pregnancy Loss Days 17-35およびPregnancy Loss Days 35-folain のいずれの発生率も、BCSが5以上のものに比較し有意に高い値を示しました。



分娩後初回発情と Pregnancy Loss の関係

交配を行った発情周期とPregnancy Lossの関連性を示します。
馬では分娩後8-20日で分娩後はじめの発情を示します。
これは分娩後初回発情と定義され、分娩後2発情目以降の発情周期に比較し子宮の回復が十分でなく、受胎率が低いことが報告されています。

本調査の結果では、分娩後初回発情での交配により受胎した群では、分娩後2発情目以降の交配で受胎した群に比較し、Pregnancy Loss Days 17-35が有意に高い発生率を示しました。また、統計的な有意差は認められないものの、Pregnancy Loss Days 35-foalingにおいても高い値を示しています。

このことは、分娩後初回発情での交配はこれまでの報告が示す低受胎率だけではなく、たとえ受胎したとしてもその後のPregnancy Loss の発生率が高いということを示しています。



黄体ホルモン投与と Pregnancy Loss の関係

プロジェステロン(200–300 mg/頭)の筋肉内単回投与の Pregnancy Loss Days 17-35の発生率に及ぼす影響について検討した結果, Chi-squaretestにより, 投与群(7.0%:72/1024)と非投与群(2.9%:13/452)に有意な差が認められました(P<0.05)。

しかし, 多変量回帰分析では黄体ホルモンの投与はPregnancyLoss Days 17-35 の発生率との有意な関係は認められませんでした。



子宮内膜シストと Pregnancy Loss の関係

子宮内膜シストの存在とPregnancy Loss についての検討です。
子宮内膜シストは一般的に子宮内膜の退行性変化により形成されると考えられています。

シストが認められたものでは認められないものに比較し、有意に高いPregnancy Loss Days17-35の発生率を示しています。
さらに年齢により2群に分けた結果、特に若齢の繁殖雌馬において

シストが認められた場合、Pregnancy Loss Days 17-35は高い発生率を示しました。

本日はここまでです。
次回、いよいよ考察に入りたいと思います。









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