1歳馬のレポジトリー;球節;近位種子骨の線状陰影

要約

異常な線状陰影は基本的に高頻度で遭遇する
X-ray所見の1つになります。

異常な線状陰影の多くは、偶発的に認められる所見であり、臨床的な意味がないと思われいます。

ただし、非常に重度なものでは繋靭帯付着部において臨床症状を示す症例も認められることから注意が必要だと考えています。

はじめに

種子骨の鬆として有名な線状陰影です。近位種子骨の線状陰影は多くの馬において認められているごく一般的な所見です。むしろ認められない馬の方が少ないくらいなので、それほど深刻な所見ではありません。

この線状陰影が問題となるのは異常な線状陰影のうちのごく一部だと考えています。

このため、異常な線状陰影の中でも重篤なものについては注意が必要だと思います。

線状陰影

種子骨の線状陰影はいわゆる血管孔と考えられている。
この線状陰影は生産者の皆さまや調教師の皆さまからは”種子骨の鬆”として知られている。
以外にも種子骨骨折はこの線状陰影から骨折が起こる場合もあるのは興味深い事実。

この線状陰影についてはいくつかの論文が発表されていて、
それらの論文内では、
”正常な線状陰影” と ”異常な線状陰影"
に分類されている。

ここでもまずはこの定義について確認しておきましょう!

まずは”正常な線状陰影”は、”幅が2mm以下で歪でないもの” と定義されている。

そして、”異常な線状陰影”とは、”幅が2mm以上で平行でない、もしくは歪んでいる”と定義されている。


実際のX-ray画像についても確認してみよう!

まずは正常な線状陰影から、

画像が悪くて少し分かりにくくて申し訳ないです。
細い線状陰影が平行に走行しているのがお分かりいただけると思います。

この線状陰影は”正常な線状陰影”になります。


次に"異常な線状陰影”について確認しましょう!


X-ray画像では3本の線状陰影がわかると思いますが、一番下の線状陰影は ”異常な線状陰影” になります。
明らかに幅が前出の ”正常な線状陰影” に比較し厚みがあり、形状もやや三角形に近いですね。

それでは各論文でどれくらいの割合で異常な線状陰影が認められるのか?
確認していきましょう!!


まずは国内での調査の結果ですね。
Miyakoshiら (2017) では近位種子骨の線状陰影について
6つのグループ分けをしています。これはオーストラリアでの調査 (Jackson et al. 2009) に基づいてグループ分けをしていると記載されています。

以下にグループそれぞれの定義を示します。


  • グループ1;線状陰影がない
  • グループ2;正常な線状陰影が1-2本
  • グループ3;正常な線状陰影が3本以上
  • グループ4;異常な線状陰影が1-2本
  • グループ5;異常な線状陰影が3本以上
  • グループ6;上記のグループに分類できない線状陰影


さて、それぞれのグループの割合について確認ですね。



まずは前肢です。


  • グループ1;3.0%
  • グループ2;62.3%
  • グループ3;18.8%
  • グループ4;10.4%
  • グループ5;2.7%
  • グループ6;2.7%

異常な線状陰影が認められるのは合計で15.4%になります。



次に後肢ですね。


  • グループ1;8.7%
  • グループ2;57.8%
  • グループ3;15.8%
  • グループ4;13.2%
  • グループ5;1.7%
  • グループ6;2.7%


ちなみに、異常な線状陰影は17.7%の馬で認められています。

つまり前後肢共に、それほど分布に差がなく、異常な線状陰影は15-20%くらいの割合で認められるのが分かります。

次にオーストラリアでの報告 (Jackson et al. 2009) についても確認します。



前肢では


  • グループ1;3.0%
  • グループ2;42.7%
  • グループ3;28.9%
  • グループ4;21.2%
  • グループ5;3.6%
  • グループ6;0.6%


異常な線状陰影は24.8%となりますね。

後肢では


  • グループ1;12.4%
  • グループ2;45.5%
  • グループ3;16.0%
  • グループ4;22.6%
  • グループ5;3.0%
  • グループ6;0.5%


異常な線状陰影は25.6%となります。

異常な線状陰影は前肢および後肢で25%前後認められています。
日本の報告に比較し、やや異常な線状陰影の割合が高いですね。

アメリカでの報告 (Kane et al. 2003) についても記載しようかと思いましたが・・・・。
なんと線状陰影の数を数え数毎に集計していました・・・。
よくもこんな面倒大変な作業ができたと思います。
そんな訳で、アメリカでの結果は異常な線状陰影を持つ馬の割合についてだけ触れておきます。

前肢では79.1%が異常な線状陰影が認められました。
後肢では77.8%が異常な線状陰影が認められました。

えっ!?
異常な線状陰影が7割以上に認められる異常な状態になってます・・・。
おそらく、日本国内での調査やオーストラリアでの調査に比較し、異常な線状陰影と診断されるハードルが低いのかもしれませんね。
同じ基準を用いているはずなんですが、結構大きく差が出ています。



それでは競走成績についても確認しましょう!


日本国内の論文 (Miyakoshi et al. 2017) では、
出走率との関係について調査しています。

その結果、前肢の分類がグループ1(線状陰影なし)の出走率 (78.1%) はグループ2(正常な線状陰影が1-2本)の出走率 (92.5%) に比較して有意に低いことが明らかになりました。
異常な線状陰影は出走率に対して影響を与えませんでした

この結果だと線状陰影がないと出走率が低いという
解釈に困る結果が出ています。基本的にはこの結果は無視してもいいと思います。
国内の調査から得られた重要な点は、異常な線状陰影は出走率に影響を与えなかったと考えられます。

次にオーストラリアでの調査 (Jackson et al. 2009) についても確認します。
この報告では出走率に加えて、獲得賞金、入着率などについても調査しています。

前肢の近位種子骨の線状陰影によるグループは、いずれの調査項目にも影響を与えませんでした。
後肢での近位種子骨の線状陰影によるグループも前肢の結果と同様に、いずれの調査項目にも影響を与えませんでした。

つまり、こオーストラリアの調査においても異常な線状陰影は競走成績と相関関係がなかったと言えますね。

アメリカでの調査 (Kane et al. 2003) についても確認してみましょう!
こちらの論文では出走率、獲得賞金、入着率について検討しています。

この論文ではグループわけせずに、線状陰影の本数で比較を行なっていました。
結果、前肢および後肢の線状陰影は競走成績との相関関係が認められないことが明らかになりました。

競走成績との相関関係についてまとめます。
種子骨の線状陰影については”正常な線状陰影”および”異常な線状陰影”のいずれについても
将来の競走成績との負の相関は認められませんでした。
よってこれらの論文からは、異常な線状陰影は競走成績に悪影響を与える可能性が低いと考えられます。

ただし、私の臨床経験からは異常な線状陰影を有して、セール上場の時点で繋靭帯脚部に腫脹があるような症例では注意が必要かと思います。
このような馬では、調教開始後に繋靭帯と種子骨の付着部を痛める症例に遭遇することが多いと感じています。

異常な線状陰影で臨床症状(腫脹や熱感)が伴う症例では、慎重にその予後を判断するべきだと考えています。


まとめ


種子骨の線状陰影は

  • 正常な線状陰影、異常な線状陰影共に高頻度で認められる所見
  • 異常な線状陰影が認められても競走成績との負の相関関係は認められない
  • ただし、臨床症状を示す異常な線状陰影では注意が必要

だと考えています。
参考にしてみてください。


参考文献

今回の記事では下記の参考文献の情報を元にしています。

興味がある方はぜひ原文も読んでみてくださいね。

Kane, A. J., Park, R. D., McIlwraith, C. W., Rantanen, N. W., Morehead, J. P., & Bramlage, L. R. (2003). Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales. Equine Veterinary Journal, 35(4), 354-365.

Kane, A. J., McIlwraith, C. W., Park, R. D., Rantanen, N. W., Morehead, J. P., & Bramlage, L. R. (2003). Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance. Equine veterinary journal, 35(4), 366-374.

Jackson, M., Vizard, A., Anderson, G., Clarke, A., Mattoon, J., Lavelle, R., ... & Whitton, C. (2009). A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings. Rural Industries Research and Development Corporation. Publication, (09/082), 09-082.

Miyakoshi, D., Senba, H., Shikichi, M., Maeda, M., Shibata, R., & Misumi, K. (2017). A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan. Journal of Veterinary Medical Science, 79(11), 1807-1814.





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