1歳馬のレポジトリー; 球節; 第三中手骨/中足骨遠位の所見

要約


第三中手骨/中足骨遠位の矢状稜の骨片および透亮像はいずれも認められることは稀です。
いずれの所見も関節の腫脹の原因となり得ます。
骨片は関節鏡手術による摘出が可能で、予後も良好だと考えられます。
透亮像は程度により予後に影響を与える可能性があります。


はじめに


第三中手骨/中足骨遠位、矢状稜の骨片および透亮像はいずれも発生率は低いと考えられます。骨片は骨折ではなくOCDだと考えています。また透亮像についてもOCDの1つで骨折や骨髄炎などの疾患とは異なると考えられます。


第三中手骨/中足骨 矢状稜の骨片


図の黒矢印で示すのが第三中手骨、矢状稜の骨片になります。
小さな骨片があるのが分かります。
正確な真横からのショットでなければ見逃すこともあるので注意が必要です。

臨床上は球節の腫脹により発見されることがありますが、その数は決して多くはないと思います。1歳馬もしくは調教前の2歳馬ではこの所見が原因で関節の腫脹が認められた馬を診療、手術した経験がありますが、現役の競走馬では経験がありません。
ちなみに手術した症例の予後は良好でした。

さて、それでは論文の情報を確認してみましょう!

日本国内の1歳馬のレポジトリー提出資料を調査したMiyakoshiらの報告 (2017) では、
この所見の発生率は前肢で0.9% (10/1055)、後肢でも0.9% (9/1031) でした。

アメリカの1歳馬について調査を実施したKaneらの報告 (2003)では、
この所見の発生率は前肢で0.8% (9/1127)、後肢では1.5% (16/1102) です。

オーストラリアの1歳馬についての報告 (Jackson et al. 2009) では、
この所見の発生率は前肢で0.4% (6/2401)でした。後肢については記載がありません。

上記の結果よりこの所見の発生率は前肢では1%未満、後肢では2%未満であり、
この所見が稀に認められる所見であることがわかります。


さて競走成績への影響についても論文を確認しましょう!

日本国内の調査 (Miyakoshi et al. 2017)では、2-3歳時の出走率との関連を調査しているます。結果、この所見は出走率に影響を与えないことが明らかになっています
いずれの場合でも出走率は80%以上と報告されています。

アメリカでの調査 (Kane et al. 2003)では、2-3歳時の出走率に加え、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金についても調査しています。前肢のこの所見では、各調査項目への影響は認められませんでした。
後肢にこの所見が認められた馬では出走率69% (11/16)とやや低い値を示しました。また、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金についてもやや低い値を示しています。
他の矢状稜に認められる所見と合わせて統計処理を行なっているため、有意差は認められませんでした。

オーストラリアでの調査 (Jackson et al.2009)では、この所見については競走成績との関連性について記載がありませんでした。

これまでの報告をみてみると、
前肢のこの所見については少なくとも心配がいらなそうです。
後肢についても現段階では著しいプアパフォーマンスに関与しているとは考えられず、
購入を控えるような重要な所見とは思えません。

ただし、矢状稜に大きな骨片および広範囲の欠損が認められる症例では、
競走馬としての予後が "Guarded-Poor" とされており (Santschi 2013)、骨片の大きさや矢状稜の欠損範囲について適切に評価することが大切です。


第三中手骨/中足骨 矢状稜の欠損


図の黄色丸で示しているのが第三中手骨/中足骨の矢状稜の欠損になります。
一部に透亮像があるのがはっきりとわかると思います。

第三中手骨/中足骨、矢状稜の骨片と同様に綺麗な外内像を撮影しないと所見を見逃す可能性があるので撮影には注意が必要です。

臨床上は球節の腫脹を示すことがあります。
私自身の経験では、跛行を示す症例に出会ったこともあります。

それでは、論文の情報を調べてみましょう!

日本国内の調査 (Miyakoshi et al. 2017) では、前肢では0.7% (7/1055)、後肢では3.1% (32/1031)の割合でこの所見が認められました。

アメリカでの調査 (Kane et al. 2003)では、前肢では2.0% (22/1127)、後肢では1.7% (18/1102)の割合でこの所見が認められました。

オーストラリアの調査 (Jackson et al. 2009)では、前肢では37.1% (890/2401) 、後肢では7.5% (159/2401)の割合でこの所見が認められました。

この所見は報告により発生率に大きな差が認められることがわかります。

この原因の1つとして各研究でそれぞれ所見の診断基準が一律でない可能性が考えられます。特に、オーストラリアの調査では、この所見の発生率が他の論文に比較し著しく高く、所見はその程度により軽度、中程度、そして重度に分類されています。

このような背景からオーストラリアの調査では非常に軽微な所見も診断し、所見としてカウントしている可能性があると考えられます。

次に競走成績への影響についても論文の結果を確認しましょう!

日本国内の論文 (Miyakoshi et al. 2017)では、2-3歳時の出走率について調査をしています。前肢では所見が認められた症例数が少ないため統計解析は実施されませんでした。
実頭数では7頭中6頭が出走していました
後肢でこの所見が認められた馬は有意に低い出走率を示しました。 (所見あり; 72.7% vs 所見なし; 93.0%)
そのため、この所見は出走率に悪影響を与えると結論付けられました。

アメリカの論文 (Kane et al. 2003)では、2-3歳時の出走率に加え、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金についても調査しています。この論文では矢状稜に認められる所見を合算して統計処理を実施しているためこの所見のみでの結果は示されていませんでした。

前肢にこの所見が認められた22頭中15頭が出走したため出走率は68%でした。この値は矢状稜に所見がない馬の出走率81%に比較するとやや低い値と考えられます。
後肢にこの所見が認められた18頭中15頭が出走したため出走率は83%でした。このあたいは矢状稜に所見がない馬の出走率81%とほぼ変わらない値となります。
この論文の結果からは前肢の矢状稜の欠損が競走成績に悪影響を与える可能性が読み取れると思います。

オーストラリアの論文 (Jackson et al. 2009)では、出走率、獲得賞金、1回走行あたりの獲得賞金、入着率等について調査をしています。
前肢のこの所見はいずれの調査項目に対しても影響を与えませんでした。
後肢に軽度から中程度の矢状稜の欠損が認められた症例では競走成績への悪影響は認められませんでした。
しかし、重度 (10mm) 以上の矢状稜の欠損が認められた症例では2歳時と3歳時のいずれの年代においても出走した割合が有意に低い値を示し、さらに初出走時期が遅く、出走回数および獲得賞金が少ないことが示されています。

3つの調査報告のうち、2つでは、後肢でこの所見が認められた場合は競走成績への悪影響を与える可能性が示されている。

このため、後肢に認められる第三中側骨、矢状稜の欠損が認められた場合は、臨床症状の有無も含めて慎重に検討し、欠損が重度な場合は将来のリスクについても考慮に入れるべきだと考えられます。

上記にも示しましたが、矢状稜に大きな骨片および広範囲の欠損が認められる症例では、
競走馬としての予後が "Guarded-Poor" とされており (Santschi 2013)、骨片も併発しているのか? 矢状稜の欠損範囲は広範囲か?? について慎重に評価することが大切です。


まとめ

第三中手骨/中足骨、矢状稜の病変は
・前肢においては将来の競走成績に悪影響を与えない
・後肢はその程度により予後が異なる
・第三中足骨、矢状稜の骨片と広範囲の欠損の併発例では予後に注意が必要
と考えられます。


参考文献

以下の論文が参考論文となります。もし、気になるようであれば原文を読んでみてください。

Kane, A. J., Park, R. D., McIlwraith, C. W., Rantanen, N. W., Morehead, J. P., & Bramlage, L. R. (2003). Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales. Equine Veterinary Journal, 35(4), 354-365.

Kane, A. J., McIlwraith, C. W., Park, R. D., Rantanen, N. W., Morehead, J. P., & Bramlage, L. R. (2003). Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance. Equine veterinary journal, 35(4), 366-374.

Jackson, M., Vizard, A., Anderson, G., Clarke, A., Mattoon, J., Lavelle, R., ... & Whitton, C. (2009). A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings. Rural Industries Research and Development Corporation. Publication, (09/082), 09-082.

Miyakoshi, D., Senba, H., Shikichi, M., Maeda, M., Shibata, R., & Misumi, K. (2017). A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan. Journal of Veterinary Medical Science, 79(11), 1807-1814.


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