要約
足根骨の破砕/変形は出生時の足根骨の低形成によるものと考えられます。レポジトリーでの発生率は1%前後と低く、所見が認められる馬では出走率がやや低い傾向が認められます。
馬のコンフォメーションと合わせて慎重な評価が必要かと思われます。
はじめに
足根骨の破砕/変形は出生時の骨低形成によるものだと考えられます。
出生時に足根骨の低形成が認められると自らの体重によって足根骨の背側が破砕や変形を起こすことが知られています。
当歳時に30%以上の足根骨に低形成もしくは破砕が生じている場合は予後が悪いことが報告されています(Dutton et al. 1998)。
同様の論文で当歳時の足根骨の低形成もしくは破砕が30%未満の場合は予後は中程度だと報告されています。
基本的に1歳馬のセールに出てくるような馬では、臨床症状を示していないのが一般的です。
そのため、上記の当歳馬の報告ほど壊滅的な予後ではないと考えています。
それでは図でその所見を確認してみましょう!
それでは各論文でその発生率を確認してみましょう!
まずは日本国内の調査(Miyakoshi et al. 2017)を確認します。
この論文では足根骨の破砕/変形は1.1%で認められました。
次にKaneらによるアメリカでの調査 (2003) についても確認しましょう。
この論文では足根骨の破砕/変形は1.2%で認められています。
オーストラリアの調査 (Jackson et al. 2009)についても確認します。
おっと、この論文では足根骨の破砕/変形という調査項目がありません。
頭数が少ないから項目がないのか、このような所見を持つ馬はセールに上場されないのか?原因は不明です。
では発生率についてまとめます。
足根骨の破砕/変形の発生率は1%程度であると考えられます。非常に稀な所見であることが分かりますね。
それでは競走成績との相関関係についても論文を確認しましょう!
日本国内の調査 (Miyakoshi et al. 2017) では、2-3歳時の出走率とX-ray所見との相関関係について調査しています。
この論文では、足根骨の破砕/変形が認められる馬の出走率は72.7%であり、対照群の93.1%に比較し有意に低い値となりました。
この論文では足根骨の破砕/変形が認められた馬は11頭であり、そのうち3頭が不出走となりました。この3頭の不出走の原因について調査されており、1頭は浅屈腱炎、1頭は骨盤骨折、そしてもう1頭は原因不明でした。
この論文では上記の結果より、足根骨の破砕/変形は低い出走率と相関関係が認められたものの、実際の不出走の主たる原因とは考えられないとしています。
この結果は非常に興味深いですね。
それではKane らによるアメリカでの調査(2003)ではどのような結果が得られたのでしょうか?
この論文では出走率に加えて、入着率、獲得賞金についても調査しています。
足根骨の破砕/変形が認められた馬の出走率は69%であり、対照群の出走率は82%でした。
ただ、この出走率の差には統計による有意差は認められなかったことから、足根骨の破砕/変形は出走率との相関関係がないと記載されています。
また、他の調査項目では対照群と差が認められませんでした。
出走率についてまとめです。
足根骨の破砕/変形が認められた馬では対照群に比較し、やや低い出走率を示しました。ただ、統計的に有意差がない、もしくは、後追い調査により不出走の主たる原因でないと報告されているため、低い出走率と相関があると言い切るにはエビデンスが低いと考えられます。
私個人の意見としては、
外貌についても気になるところです。
足根骨の破砕/変形が認められる馬では曲飛の馬が多いように感じています(あくまで個人の感想です。)。曲飛の馬では飛節後腫などのトラブルが多いため、あまり好みのタイプではありません。
このような所見はX-ray画像だけでなく、実馬のコンフォメーションと合わせて慎重に判断すべきだと考えています。
まとめ
・足根骨の破砕/変形は出生時の未熟が原因の場合が多い・発生率は1%程度であり、まれ。
・出走率はやや低い。
・馬のコンフォメーションと合わせて慎重に評価
・跛行の原因となり得る。
と考えています。
参考文献
今回の記事では下記の参考文献の情報を元にしています。
興味がある方はぜひ原文も読んでみてくださいね。
Dutton, D. M., Watkins, J. P., Walker, M. A., & Honnas, C. M. (1998). Incomplete ossification of the tarsal bones in foals: 22 cases (1988-1996). Journal of the American Veterinary Medical Association, 213(11), 1590-1594.
Kane, A. J., Park, R. D., McIlwraith, C. W., Rantanen, N. W., Morehead, J. P., & Bramlage, L. R. (2003). Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 1: Prevalence at the time of the yearling sales. Equine Veterinary Journal, 35(4), 354-365.
Kane, A. J., McIlwraith, C. W., Park, R. D., Rantanen, N. W., Morehead, J. P., & Bramlage, L. R. (2003). Radiographic changes in Thoroughbred yearlings. Part 2: Associations with racing performance. Equine veterinary journal, 35(4), 366-374.
Jackson, M., Vizard, A., Anderson, G., Clarke, A., Mattoon, J., Lavelle, R., ... & Whitton, C. (2009). A prospective study of presale radiographs of Thoroughbred yearlings. Rural Industries Research and Development Corporation. Publication, (09/082), 09-082.
Miyakoshi, D., Senba, H., Shikichi, M., Maeda, M., Shibata, R., & Misumi, K. (2017). A retrospective study of radiographic abnormalities in the repositories for Thoroughbreds at yearling sales in Japan. Journal of Veterinary Medical Science, 79(11), 1807-1814.
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