馬;感染性関節炎

はじめに

感染性関節炎はサラブレッド生産地である北海道日高地域では比較的よく遭遇する疾患だと思います。
先日、本州の競馬場および育成場を診療対象としている獣医師の方とお話する機会があり、感染性関節炎について聞いてみたところ、ほぼ全く遭遇しないと教えていただきました。
確かに、生産地で認められる感染性関節炎のほとんどは子馬で認められるものなので、
本州で現役競走馬を診療対象にしている先生方はあまり診療機会のない疾患なのかもしれません。

今回は、テキストを参考に馬の感染性関節炎の治療について少し勉強してみました。

感染性関節炎の治療目的


異物の除去・感染壊死を起こした組織のデブライドメント・微生物の除去・破壊酵素およびフリーラジカルの除去・組織治癒促進・そして正常な関節内の環境を復元することが感染性関節炎に対する治療目標となると考えられます。

これまでの多くの論文において関節内蓄積物の除去が重要であると提案されています。

人間の医療現場では関節鏡による感染性関節炎への治療が関節切開による治療に比較し、術後の外貌、異物、感染組織の発見、より広範囲へのアクセスの点で優れていると報告されているようです。

感染性関節炎のステージ

人医療においては感染性関節炎が4つのステージに分類されています。

Stage1;
混濁した液体、充血した滑膜、点状出血が認められ、X-ray上の異常所見は認められない。
Stage2;
重度の炎症、フィブリン蓄積、化膿性の液体が認められ、X-ray上の異常所見は認められない。
Stage3;
関節包の肥厚、絨毛の癒着が起こり、コンパートメントに分断される。X-ray上の異常所見は認められない。
Stage4;
関節軟骨にパンヌスの浸潤が認められ、軟骨損傷が認められることもある。X-rayでは軟骨下骨の骨融解像、骨糜爛性変化やシスト状透亮像が認められる。

ステージ毎の治療方針

上記のステージ分けに基づく治療方法がそれぞれ提案されています。

Stage1;
すべての関節内のコンパートメントを洗浄すること
Stage2;
stage1での治療に加えて、フィブリン・デブリスの除去や時には滑膜切除術の併用が必要となる。
Stage3;
stage2での治療に加えて、癒着部の剥離、全域の滑膜切除術が必要となる。
Stage4;
stage3での治療に加えて、骨より剥がれて浮いた軟骨の切除、骨病変のデブライドメントが必要となる。

医師による報告では上記の分類はステージの進行、予後、手術が必要な割合と関連性が認められたとされています。このような分類分けですべてが明らかになる訳ではありませんが、上記のような分類は臨床上有用であると考えられています。

関節鏡を用いて感染性関節炎を治療する場合にはすべての構造について検査する必要があり、そのためには可能なすべてのportal から関節鏡を挿入し、関節内を観察する必要があります。

感想

私は感染性関節炎や腱鞘炎のグレーディングをこれまで行ってきてはいません。
現在までのところ、そのようなグレーディングを用いずに診療を行なってきました。

治療方法も様々で、抗生剤の全身投与、抗生剤の関節内投与、関節洗浄(Needle to needle, arthrosopic lavage)の選択肢があり、それぞれを馬の状態に合わせて使い分けてきたつもりです。

ただ、今回、少しですが勉強し直したことで、
どの程度から関節洗浄による処置が必須なのか、関節洗浄に関節鏡を使用するメリットがあるのかについて考えさせられました。

今後、上記のグレーディングを行い、それぞれの予後や治療方法について検討すれば、適切な診療指針を作成することができるかもしれません。

今シーズンから少しづつではありますが、このグレーディングを初めていきたいと思います。

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