はじめに
サラブレッドにおける骨嚢胞は主に大腿骨内側顆に認められることが一般的です。それに加えて、第三指骨近位、第二指骨、第一指骨の近位および遠位、第三中手骨、さらには肩甲骨の遠位にも認められることが知られています。
今回、紹介する論文に記載されているのは橈骨近位の骨嚢胞になります。この部位についても発生率は低いものの、骨嚢胞が認められることが知られており、跛行の原因となり得ると考えられています。
私のこれまでの経験では、橈骨近位の骨嚢胞は2例のみしか遭遇しておりません。
私の少ない経験からでも橈骨の骨嚢胞が大腿骨の骨嚢胞に比較し、発生率が少ないことがわかります。
もちろん、診断できていない跛行の症例が橈骨の骨嚢胞による跛行であったという可能性もありますので、診断がついた2例以外にもこのような症例に出会っているかもしれません。
今回、紹介する論文は
"Treatment of subchondral lucencies in the medial proximal radius with a bone screw in 8 horses"
というタイトルになります。
前回、前々回と紹介したSantschi先生達のグループによる研究になります。
それでは早速、Abstractを和訳してみたいと思います。
Abstract
目的;橈骨近位に骨嚢胞を認めた8頭の馬に対し、骨嚢胞への治療として螺子挿入術を実施した治療成績を明らかにすること
研究デザイン;回顧的症例研究
対象動物;橈骨近位の骨嚢胞により跛行を呈する8頭の馬
方法;診療記録調査および臨床の追跡調査
結果;橈骨近位の骨嚢胞により跛行を呈する馬8頭に対して骨嚢胞を跨ぐように螺子挿入術を実施した。治療馬の年齢は1-20歳であった。8頭中4頭は、間欠的に重度の跛行を呈した(並足でも明らかな跛行)。5頭では跛行の原因が肘関節にあることが診断麻酔により明らかになった。8頭全ての馬でX-ray検査により橈骨近位の骨嚢胞が診断された。
8頭全ての馬で橈骨近位の内側から外側に向け4.5mmの皮質骨螺子を挿入した。この螺子は透視装置もしくはX-ray画像を参考に骨嚢胞を跨ぐように挿入された。6頭についてはラグスクリュー法で挿入し、2頭はポジションスクリューとして挿入した。術後管理としては、30-60日間は厩舎内休養と引き馬を実施した。その後の30-60日間は放牧地管理とした。X-ray画像上での治癒(骨嚢胞の縮小)は全ての症例で手術から3−4ヶ月後に確認された。8頭中7頭で手術から6ヶ月以内に目的の使役に復帰することができた(4頭はパフォーマンスホース、3頭は放牧)。残りの1頭は当初、跛行が改善したものの、跛行の再発により目的の使役に復帰しなかった。
結論;橈骨近位内側に認められる骨嚢胞に対する螺子挿入術は骨嚢胞に起因する跛行を8頭中7頭(88%)で軽減もしくは改善した。橈骨近位内側の骨嚢胞に対する螺子挿入術は早期の運動復帰を目指す症例や保存療法によって良好な結果が得られなかった症例に対する有用な治療法だと考えられる。
引用和訳終了
感想
かなり良好な結果が得られた手術報告だと思います。すでに大腿骨内側顆の骨嚢胞に対して有用な治療法であることを報告した骨嚢胞への螺子挿入術について、他の部位に認められる骨嚢胞についても同様に有用であることを示しています。
この論文の結果から考えられることは、
大腿骨および橈骨近位の骨嚢胞に対して有用な治療方法である螺子挿入術は、さらに異なる部位に認められる骨嚢胞に対する治療方法としても有用な可能性が高い
ことだと思います。
これまでに私の経験から第一指骨近位の骨嚢胞については、
この螺子挿入術が非常に有用な治療方法であると考えています。
さらにこの手術の開発者であるSantschi先生は、
第二指骨や第三指骨、そして第三中手骨の骨嚢胞についても螺子挿入術を実施し、良好な結果を得ているようです。
このような結果から、螺子挿入術は骨嚢胞の手術方法として、汎用性が高く、良好な治療成績を期待できる方法だと考えています。
今後は、螺子挿入術に加えて、IRAP、PRP、そして幹細胞などの再生医療との併用を視野に入れ、検討し、その有用性を明らかにしていきたいと考えています。
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