はじめに
これまでに骨嚢胞に対する螺子挿入術の論文を中心に紹介してきました。今回は蹄骨の骨嚢胞を保存療法により治療し、その成績をまとめた論文を紹介したいと思います。
蹄骨の骨嚢胞は比較的、稀な所見だと思われます。
私はこれまでに1例でのみ経験があります。
その1例については、関節内のステロイド投与と馬房内休養にて良化が認められ、
処置後6ヶ月の段階でキャンターでの調教が可能となっています。
蹄骨の骨嚢胞は関節鏡でのデブライドメント、螺子挿入術などの外科的治療が行いにくい箇所に認められます。
そのため、保存療法行なったという報告は臨床現場において有用な情報だと思います。
今回、紹介する論文は、
"Radiographic Identification of Osseous Cyst- Like Lesions in the Distal Phalanx in 22 Lame Thoroughbred Horses Managed Conservatively and Their Racing Performance."です。
それでは、早速Summaryを和訳してみます。
Summary
背景;蹄骨の骨嚢胞により跛行を示し、保存療法で治療を実施したサラブレッド競走馬の処置後の競走成績について調査を行う
目的;蹄骨の骨嚢胞により跛行を示し、保存療法を行なったサラブレッド競走馬の競走成績について評価する
研究デザイン;回顧的症例調査
方法;馬動物病院における10年間分の診療データから蹄部の跛行を認め、X-ray画像により蹄骨に骨嚢胞を認めた馬の診療記録を調査した。骨嚢胞が認められた時の性別、年齢、跛行の程度、患肢、および治療方法について記録した。競走成績については骨嚢胞を認めたのち、1回でも出走できたものを成功とし、Maxiximum racing performance rating (RPR) についても明らかにした。X-ray画像から骨嚢胞のサイズ、位置、骨嚢胞の辺縁の硬化像、そして関節面での不正について競走成績の成功との関連性を評価した。出走した馬についてはその競走成績について母系兄弟との比較を行なった。
結果;22頭が条件に一致した。骨嚢胞が認められた後に13頭が出走した。8頭は出走しなかった。1頭はまだ出走する年齢に達していない。そのため、競走年齢に達した馬では62% (13/21)がレースに少なくとも1回は出走した。骨嚢胞が認められた馬の出走率は母系兄弟馬と比較し優位に低い値を示した(p=0.03, Odds raito (OR) 0.30)。無事に出走することができた骨嚢胞を認めた馬では母系兄弟馬と同等のRPRを示した。いずれのX-ray画像の特徴とも出走率との間に相関を認めなかった。しかしながら、左前肢における骨嚢胞は他の肢における骨嚢胞に比較し優位に良好な結果を示した(p=0.02, OR=2.33, 95%CI 1.27, 4.27)。
結論;蹄骨の骨嚢胞を保存療法にて治療した場合、母系兄弟に比較し低い出走率を示した。しかしながら、骨嚢胞をもつ馬が出走できた場合、母系兄弟と同等の競走成績を示した。この症例報告は少頭数のケースリポートですので、注意して解釈すべきである。
和訳引用終了
感想
約6割が出走との結果であり、比較的良好な結果だと思います。このような所見が認められた場合、関節内へのステロイド投与が第一選択だと考えられます。実際に序論でも記載しましたが、私が1例のみ経験した蹄骨の骨嚢胞症例でもこの関節内へのステロイド投与により良好な結果を得ることができました。
関節内へのステロイド投与については種々の合併症が認められるため、そのリスクについて十分に畜主に説明する必要があると考えられます。
この論文での主な治療方法は
関節内ステロイド投与、PRP投与、ヒアルロン酸とステロイドの併用になります。
これらの治療方法により約6割の出走率を示したことは貴重な報告となります。
この論文で示されたような保存療法が成功しない場合、関節鏡でのデブライドメントおよび螺子挿入術が次の選択肢となり得ると考えられます。
現在までに蹄骨骨嚢胞への螺子挿入術に関する論文は示されておりません。
最新版のEquine Surgeryにはその記載およびX-ray画像が掲載されています。
今後、螺子挿入術が普及してくるかもしれません。
関節鏡でのデブライドメントでは、手術後に91%の治癒率を示しており、非常に有用な方法だと報告されています。
まだ、私は蹄骨骨嚢胞に対する関節鏡でのデブライドメントの経験はありません。今後、適応例遭遇に備え、手術手技の確認と練習を行なっておきたいと思います。
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