はじめに
今の職場では完全に繁殖検診など行う機会がないですが、
今でも繁殖は興味を持っている分野の1つです。
今回はWest Coast Equine Reproduction Symposiumの抄録を発見したので、
見直してみました。
今回は交配誘発性子宮内膜炎についての記載をまとめてみました。
今回紹介する記事の結論
シーズンのはじめに万端な状態で交配を行う。
そしてその交配の際には十分に念入りな治療を行う。
交配誘発性子宮内膜炎
交配誘発性子宮内膜炎の炎症のピークは交配から8-12時間後であることが明らかになっています。正常な牝馬では炎症は交配から24-36時間後には改善されることが知られています。そのため、交配から24-36時間後においても子宮内に炎症が認められる場合、交配誘発性子宮内膜炎が疑われます。
交配誘発性子宮内膜炎は15%のサラブレッド種繁殖牝馬で認められます。
発生要因としては加齢(特に15歳以上)、交配回数の増加、凍結精子を用いての人工授精が挙げられています。
発生素因としては、子宮収縮能の低下や子宮頸管の弛緩不全が挙げられます。
分類
子宮内貯留液はColorado SUでは以下の6つのグループに分類されています。
0; None; 0cm
T; Trace; <1cm
S; Small; 1-2cm
M; Medium; 2-4cm
L; Large; 5-10cm
VL; Very Large; > 10cm
子宮内貯留液はそのエコー性状によっても4つのグループに分類されています。
4; Clear; Non-echogenic
3; Slightly Cloudy; Slightly-echogenic
2; Very Cloudy; Moderately-echogenic
1; Thick, Purulent; Very-echogenic
治療
交配誘発性子宮内膜炎の治療に関する目的は交配後48時間での子宮内貯留液をなくすことになります。その理由の1つとして、交配後48時間での子宮内貯留液の存在は妊娠率を60-24%減少させると報告されているためです。
Oxytocinを交配後4-6時間毎にIM/IVすることで子宮の収縮能低下を補い、子宮内貯留液を減少させる効果が期待できると考えられています。この時、1回投与量は10-20IUが推奨されています。
子宮洗浄における薬剤の使用方法についても記載があります。N-acetylcysteineは30mlの20%薬液を60-150mlに希釈し、子宮内に投与し、投与から12-24時間後に子宮洗浄を行うことが推奨されています。
DMSOは50-200mlを1LのSalineに加え子宮洗浄後に子宮内投与することが推奨されています。しかし、他の記載では30mlを希釈し100mlとして子宮内投与する方法も紹介されています。
Kerosene(灯油)は500mlを子宮内投与し、12時間後に子宮洗浄を実施することが推奨されています。
交配誘発性子宮内膜炎を予防・治療するためにNSAIDを投与することに効果は期待できないと考えられています。
Dexamethasoneの50mg投与は効果が報告されているが、半量投与では効果が認められなかったため、投与量について注意が必要だと考えられます。
prednisolone (0.1mg/kg)を交配前48時間より投与し、12時間毎に5日間投与し続けることで交配誘発性子宮内膜炎を予防し、受胎率が向上するとした報告があるため、Dexamethasoneによる蹄葉炎のリスクが高い馬ではprednisoloneの使用を検討しても良いかもしれません。
Prednisoloneは5mgの錠剤が100錠1箱で販売されていて、1箱が1000円前後で国内でも販売されています。
これまでは蹄葉炎を恐れて、Dexamethasoneを20mg IMで使用したり、NSAIDを使用してきました。しかし、今回のプレゼンテーションを聞くとこのような薬剤選択、投与方法では期待している効果が得られないようです。今後はPrednisoloneのPOを検討していきたいと考えています。
運動が子宮内貯留液の排出を向上させる可能性が指摘されていました。
このため、交配前後に運動を行うことで子宮内の貯留液排出を促進し、交配誘発性子宮内膜炎の程度を軽減できるかもしれません。
注意点としては子宮内への治療は排卵後2日以内までに実施すべきで、
その後は行うべきではないという点です。これは子宮頚管が締まり、貯留液の排出が困難になるためだとされています。
臨床での管理
実際の臨床では以下のような管理が求められます。
Step1;
hCG/Deslorelinを投与。hCGでは投与後36時間までに、Deslorelinでは投与後40時間までに排卵するとされてます。Thoroughbredでは35-45mmの卵胞で交配するのが適切だだと考えられます。
Step2;
交配はひと発情につき1回にするべきです。
必要によりDexamethasoneを投与すべきだと考えられます。
Step3a;
UL を交配後4-6時間で実施すること。
UL中にOxytocinを投与する方法もありますので検討してみましょう。
シーズン中最初の発情周期が最も高い受胎率が期待できるようです。
前シーズンが不受胎の場合は、交配前に十分に治療を行い、1回の交配で受胎できるように心がけると良いとされています。
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