はじめに
結腸捻転は馬の疝痛の中でも緊急度が高く、外科手術による介入がなければ命を落とし得る疾患の1つです。結腸捻転のため開腹手術を実施する場合、捻転の整復のみを実施することが広く実施されている様です。国内での結腸捻転に対する手術では、一般的に結腸捻転の整復に加え、結腸骨盤曲を切開し、腸内容を排出する結腸切開術が行われていると思います。
この際、結腸の状態が悪く、結腸を残存させることで重度のエンドトキセミアを引き起こすと考えられる場合、結腸切除術が選択される場合があります。
また、結腸捻転時以外にも腫瘍などの場合に結腸切除術が実施される場合もあります。
今回は結腸切除術について報告した論文を紹介します。
今回紹介する論文のタイトルは、
”Survival and complications after large colon resection and end-to-end anastomosis for strangulating large colon volvulus in seventy-three horses.”となります。
要約
論文紹介;
結腸捻転発症馬73頭における結腸切除の予後と合併症,
結腸捻転発症馬73頭における結腸切除の予後と合併症,
Vet Surg. 2008 Dec;37(8):786-90.
Ellis CM1, Lynch TM, Slone DE, Hughes FE, Clark CK.
Ellis CM1, Lynch TM, Slone DE, Hughes FE, Clark CK.
目的:結腸捻転発症馬における結腸切除端端吻合の合併症と予後について報告すること
研究デザイン;回顧的症例報告
対象動物;結腸捻転を発症したウマ73頭
方法;1995年1月から2005年12月までに結腸捻転を発症し、結腸切除術を受けたウマの医療記録を調査し、その合併症について検討した。予後調査は電話によるインタヴューにて実施し、少なくとも手術から1年以降に行った。COX比例ハザードモデルを用いて各要因と生存期間の関連性を解析した。調査要因としては手術日、年齢、体温、心拍数、PCV、TP、白血球数、品種そして性別が含まれた。P値が0.05未満を有意とした。
結果;最も一般的に認められた合併症は下痢であった。9個の調査要因すべてが生存率と関連性を認めなかった。短期間生存率(退院まで)は74%であった。手術後1年、2年そして3年後までの生存率はそれぞれ67.8%、66.0%そして63.5%であった。4頭が手術後1年以内に疝痛を原因として死亡した。1年以上生存することができたすべてのウマがそれぞれの用途に復帰することができ(37頭の繁殖牝馬、2頭の競走馬そして1頭のショーホース)、外科手術に関連した慢性的な問題は認められなかった。
結論;調査要因には生存率と関連性を示す要因は認められなかった。結果はこれまでに報告されたウマの疝痛に関する論文と一致している。結腸切除後の下痢は一般的に認められる合併症であり、退院後の予後は良好である。
臨床的関連:結腸切除端端吻合を実施され、無事に退院したウマでは生活の質および用途へ悪影響が最小限な状態で長期間にわたり生存できる可能性が高い。
感想
この論文での短期生存率は非常に素晴らしい結果です。
一般的に結腸捻転による開腹手術の短期生存率は50-70%であることが知られています。2本の論文において80%を超える生存率が報告されています。
Ellisらの論文では、結腸切除を実施した症例で生存率が70%を超える高い値を示しています。
しかも、3年後の生存率も63%を示し、非常に良好な結果を得ています。
残念ながら各調査項目と生存率の間に相関関係が認められなかったため、生存率に影響を与える要因については明らかとされていません。
この論文は結腸捻転における開腹手術での結腸切除実施に対して後押しをしてくれる有用な報告となり得ると思われます。
この論文の問題点としては、コントロール群の設定がないため切除を実施しない場合、どの程度の生存率を示したのか明らかでない点、そして、手術適応症例について客観的な指標が示されていない点となります。
現在、私も結腸切除術を実施する機会があるものの、適応症例の選択の判断は難しく、最終的には自分の主観での判断となってしまいます。
今後は、適応症例の選択について簡便で客観的な指標を作成できる様、検討していきたいと思います。
0 件のコメント :
コメントを投稿