大腿骨骨嚢胞に併発した脛骨近位の骨嚢胞 4症例(Bonilla et al. 2016)

はじめに
前回の記事では

大腿骨内側顆に対する螺子挿入術について紹介しました。
今回の記事は同様のグループによって報告されている脛骨近位骨嚢胞についての症例報告です。

今回の症例報告では、
大腿骨内側顆に続発した脛骨近位の骨嚢胞について記載されています。

私は同様の症例を1例だけ経験しております。
私の経験した症例では残念ながら競走馬として出走することはできませんでした。

今回、紹介する論文は
”Concurrent or sequential tibial subchondral cystic lesions in 4 horses with medial femoral condyle subchondral cystic lesions.”
という論文です。


それでは要約を和訳してみます。

Abstract

研究スタイル;後肢の跛行を呈した4症例について検査を実施した。

臨床所見;3症例では6ヶ月以上の長期間、跛行が継続していた。1症例では跛行の期間は明らかではなかった。来院時の検査では全ての馬でグレード3−4(グレード1−5)の跛行を示した。膝関節のX-ray検査では4頭全てで大腿骨内側顆に骨嚢胞もしくは透亮像が認められた。3頭では内側大腿ー脛骨関節での変形性関節炎が、3頭では脛骨近位内側での骨嚢胞が確認された。


治療と治療成績;2頭は内科的に治療された(厩舎内休養と経口でのNSAID投与)、2頭は大腿骨内側顆の骨嚢胞に対して螺子挿入法による治療が行われた。内科的に治療された2頭は症状が良化せずに安楽殺となった。解剖にて、大腿骨内側顆の骨嚢胞および脛骨近位内側の骨嚢胞が認められた。大腿骨内側顆および脛骨近位内側に骨嚢胞が認められ、大腿骨内側顆に螺子挿入術を実施した1頭では跛行の改善が認められず手術後150日で安楽殺となった。もう1頭の大腿骨内側顆に螺子挿入術を実施した症例では、手術後3ヶ月で脛骨近位内側に骨嚢胞形成を認めた。脛骨近位内側の骨嚢胞については外科的な治療は選択されなかった。手術から11ヶ月後にこの馬は跛行の改善が認められた。


臨床的意義;この少数の症例報告から脛骨近位内側の骨嚢胞が大腿骨内側顆に関連し認められることを明らかにした。これらの骨嚢胞の併発が認められた症例では競走馬もしくは競技馬としての予後は不良であると考えられた。さらに今後の研究により予後を明らかにするべきだと考えられる。

和訳引用終了。

感想

貴重な症例報告だと考えています。
今回のデータはネガティブデータであり、公表には賛否があるものだと思いますが、
このような併発症の存在を明らかにすることには臨床上、意義のあることだと考えています。

はじめに記載したように、これまでの経験した症例の中に今回の論文のように、大腿骨内側顆の骨嚢胞に対して螺子挿入術実施後に脛骨近位内側に骨嚢胞を形成した馬がおり、この論文はその際にも大変参考になりました。

今回の症例報告では4頭全ての馬で目的とする結果を得ることができませんでしたが、
脛骨近位内側の骨嚢胞に対しても螺子挿入術等の積極的な治療を行うことで異なる結果を得ることができたかもしれません。

今後はこのような症例に対しても積極的な治療が行われ、良好な成績を得たという報告を期待しています。

まとめ

大腿骨内側顆骨嚢胞の症例では、脛骨近位内側の骨嚢胞を併発するリスクがあり、併発した場合の予後は難しいと考えられます。ただし、脛骨近位内側の骨嚢胞への外科治療は今回の論文では行われておらず、今後、外科手術による治療成績の公表が待たれます。




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