はじめに
これまでの記事では、馬の難産について・事前準備
・胎子の失位
・牧場での整復
・二次診療へ搬入を検討する症例
について記事にしてきました。
今回の記事は、
難産を二次診療施設に搬入した場合の流れを教科書などを参考にまとめてみました。
来院時に必要な情報
繁殖牝馬が難産により二次診療施設に来院する場合に必要な情報について記載してみます。私が難産の繁殖牝馬が来院する際に必要な情報だと考えているのは、破水時間、難産の理由、これまで実施した処置、そして、これまで投与した薬剤です。これらの情報があることで難産発症馬の診療がスムーズに進んで行くと考えています。
二次診療の流れ
それでは二次診療に難産発症馬が来院した場合のフローチャートを作成してみました。
これは教科書などを参考に私が作成したものですので、常にこのチャート通りに進んで行くとは思えません。しかし、診療手順の参考になると思います。
繁殖牝馬が破水してから45-60分が経過した場合、胎子の生存率は低下することが報告されています。そのため、難産発症馬を二次診療施設に搬入する場合にも、担当者は破水からの時間に注意し、その後のプランを決定すべきだと思われます。
ただし、私の経験では、破水から160分後に二次診療施設にて無事に娩出し、生存した症例もあります。状況によっては時間が経過していても生存しているケースがあるかもしれません。
難産発症馬が二次診療施設に搬入された場合の成績
スライドに難産発症馬が二次診療施設に搬入された場合の成績を示しています。
まずは、難産発症馬が二次診療施設に搬入された場合の生存率です。
生存率は82-92%でした。おそらく、皆様の想像よりも死亡する繁殖牝馬の割合が高いかと思います。
私はこのデータが馬の難産が胎子だけでなく、繁殖雌馬の生命にとってもリスクとなり得ることを示していると考えています。
難産発症馬が二次診療施設に搬入された場合の胎子の生存率は3.6-30%と報告されています。この値は私がこれまでの経験から想像していた値と同程度です。
やはり二次診療施設に搬入されるような難産発症馬では、破水からの時間経過が長く、胎子生存率は低い値となってしまうように思います。
難産発症馬のその後の生産能については1つの論文でのみ記載されていました。
この論文によると難産後3年間の通算生産率は67%と報告されています。
つまり、難産後の3年間で2頭の子馬を分娩できたと報告していることがわかります。
この値は私が想像していたよりも高い値です。
私は難産発症馬後に子宮頚管の裂創などに伴い、繁殖能力が低下するケースに多く遭遇してきたため、この値には驚かされました。
今後、難産処置の技術向上を行い、難産処置後の繁殖能力へのダメージ軽減に務めたいと思います。
後肢吊り上げ
立位での難産整復の試みが成功しない場合、次の選択肢となり得るのが、後肢吊り上げによる経膣分娩になります。この方法は繁殖牝馬に全身麻酔をかけ、後肢をクレーンで持ち上げることで胎子を整復するスペースを作り、難産を整復する方法です。
処置後の繁殖牝馬の生存率は71-94%と報告されています。
また、15-20分で分娩の進捗が認められなければ、帝王切開もしくは胎子の切胎を選択すべきだとされています。
これまでの私の経験では、多くの難産はこの後肢吊り上げを選択することで整復できると考えています。そのため、この方法は馬の難産整復術として有用であると思います。
帝王切開
後肢吊り上げで難産が整復できない場合、帝王切開が最終手段となります。帝王切開実施後の繁殖牝馬の生存率は64-89%と報告されており、比較的リスクがあることが分かると思います。
また、帝王切開の実施までにかなりの時間が経過しているためか、胎子の生存率は0-35%と報告されています。
今回の記事では馬の難産;二次診療施設に搬入された場合についてまとめてみました。
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