症例;腓腹筋断裂の新生子馬

はじめに

新生子馬の腓腹筋断裂は主に分娩時に発生すると考えられる疾患です。
主に難産に伴い発生し、飛節の過伸展により引き起こされると考えられています。
腓腹筋および腱のいずれにも断裂のリスクがあり、
重症例では出血死する場合もあります。


主な臨床症状を下に示します。



  • 起立困難・跛行→筋損傷の程度に依存
  • 飛節の沈下/過屈曲
  • 腓腹筋周囲の腫脹
  • 超音波診断/血液検査/特徴的な症状

スライドに示すような特徴的な臨床症状を示します。
起立不能として認められることも多くあるため、娩出時からの起立不能の場合、腓腹筋断裂についても疑う必要があると思われます。

これまで、国内で死亡例について主に報告がなされています。
古い教科書などでも基本的には予後が悪いと記載されていました。
ただ、2009年に米国の馬病院から発表された論文では、トンネルキャストにより良好な予後が得られたことが報告されています。

現在の教科書では治療について記載が認められ、
患肢の固定が推奨されていました。

方法としてはロバートジョーンズ包帯、スリープキャスト、そしてトーマススプリントが紹介されています。
ちなみに、教科書での予後は生存はFair、競走馬としてはGuarded to poorと記載されていました。先に紹介した論文と比較してみると、なかなか厳しい表現です。




それでは症例について紹介します。


症例

症例は娩出時から起立不能でのため、分娩から8時間後に初診となりました。
主な臨床所見としては起立不能、右後肢の後膝周囲の腫脹が認められました。
TPRは正常であり、Echo検査で腓腹筋の不全断裂が認められました。
特徴的な臨床所見およびEcho所見から腓腹筋断裂と診断し、キャストの手持ちがなかったため、ロバートジョーンズ包帯にて後膝のすぐ遠位までを固定しました。
ロバートジョーンズ包帯をつけた後、不恰好ではあるものの、起立し、自ら吸乳することが可能となりました。

さて、翌日です。

ロバートジョーンズ包帯では負重し続けるのは難しそうなため、翌日にはスリーブキャストに変更です。これで完全に寝起きも自ら行えるようになりました。

第4病日には、
キャストの近位、後膝周囲の腫脹が減じたため、キャストがゆるくなってしまいました。
このような事情から、キャストの交換を行いました。
ちなみに当歳の皮膚が薄いため、キャストの遠位でも皮膚が痛んでおりました。


第21病日にはキャストを除去しました。
当歳では長期間のキャスト固定は推奨されていません。
これは筋萎縮、腱の弛緩などの好まない作用が起こってしますためです。
ちなみにこの馬でも著しい繋の弛緩が認められました。

第31病日までバンテージを巻いていましたが、
むしろ逆効果となり、繋の弛緩は良化しません。
蹄にエクステンションを付けてみましたが、これも効果があったとは思えず。
邪魔くさいので外しました。
この日以降は、バンテージもエクステンションも外しています。

この後、馬はみるみる力がつき、あっという間に繋の弛緩も改善しました。
2ヶ月齢の段階では、他の子馬と一緒に放牧可能になりました。

その後、なんの問題もなく、順調に成長し、無事に売却されています。


まとめと考察



新生子馬が起立困難/不能の場合、念のため腓腹筋断裂についても疑うことが重要かと思います。教科書的にはなかなか厳しいことが記載されていますが、2009年の論文を信じてスリーブキャストによる固定を行えば予後は期待できそうです。
この治療は難しいことはなく、知っていればなんとかなりそうなので、頭の片隅にあればいいのかなと考えています。

そもそも、遭遇率が著しく低い疾患だと思うので、いつこの情報が役に立つのかわかりませんが・・・・。

治療前に気をつける点としては、初乳を飲めていないことが多く、敗血症のリスクも高いと記載がありました。このようなことから、キャスト固定だけでなく、全身状態を評価し、必要な内科治療を行うことも大切だと思います。


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