Uteropexy (Brink et al. 2010)

はじめに

老齢繁殖雌馬では子宮を吊り上げている靭帯が弛緩し、子宮が沈み込み、
結果として、子宮内貯留液の貯留、そして不受胎へと繋がります。

このような、症例を改善するために、沈み込んだ子宮を持ち上げる手術が開発、報告されています。

今回取り上げる論文は、初めて馬のUteropexyを報告した論文になります。

今回、紹介する論文は、
Elevating the uterus (uteropexy) of five mares by laparoscopically imbricating the mesometrium.EVJ 2010 (42) 675-679.
となります。

それではSummaryの和訳です。

Summary


Reason for performing study;子宮の自浄作用低下が認められる繁殖牝馬において、腹側方向に下垂した子宮を背側方向に持ち上げる手技についての研究が必要なため。

Hypothesis;腹側に下垂した子宮は腹腔鏡手術により水平まで持ち上げることができる。

Objective;腹腔鏡手術により子宮間膜を縫い詰めて下垂している子宮の位置を水平まで持ち上げる。

Methods;5頭の多経産馬を研究に用いた。いずれの繁殖牝馬も空胎であり空胎の期間は1−8年(平均3.8年)であった。左右の子宮間膜を立位腹腔鏡下で縫い詰め、子宮角および子宮体部を水平まで持ち上げた。子宮角および体部の背側と子宮間膜を連続縫合で縫合し、縫い詰めた。

Results;5頭の繁殖牝馬、すべてで子宮は水平まで持ち上がった。5頭中3頭は手術を実施した年にほかに特別な治療をおこなわずに受胎した。

Conclusions;腹腔鏡手術で子宮間膜を縫い詰めることで腹側方向に下垂した子宮を水平まで持ち上げることができる。

Potential relevance;腹側方向に下垂した子宮を持ち上げることで子宮の排出能が改善され繁殖能力が向上する。


感想

この論文では立位腹腔鏡手術にて腹側方向に下垂した繁殖牝馬の子宮を背側方向に持ち上げることで子宮の自浄作用が改善され、繁殖能が向上することが報告されている。

手術を受けた5頭のうち3頭は受胎が確認され、うち1頭は分娩まで妊娠を維持したが死産であった。2頭については現在受胎中である。
不受胎であった2頭は、1頭は手術前に顆粒膜細胞腫により一方の卵巣が摘出されており、Uteropexyを受けた翌年には残っていた卵巣も顆粒膜細胞腫となった。もう1頭は畜主の希望により用途変更された。

手術後の成績はすばらしいと思う。これらの研究に供された繁殖牝馬の平均不受胎年数は3.8年とされていて、しかもこれらの馬はその間、毎年交配されている。
非常に受胎が難しいと考えられる馬で6割の馬で受胎できたとの成績となる。

実際にこの手術を私が実施するための問題点としては、
腹腔鏡をどのように確保するのかという点がもっとも大きな問題点であると考えている。
残念ながら、現在の勤務先には馬用の腹腔鏡がない、そして現在のところ購入予定もない。
どうにかして、腹腔鏡をレンタルする、もしくは安価での購入方法を検討したい。

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