まとめ
結腸捻転発症繁殖牝馬に対して、傍正中切開による結腸固定術の予後は良好。
はじめに
結腸捻転は分娩した繁殖雌馬で発生率の高い疝痛だと報告されており、実際に私が働いているサラブレッド生産地においても比較的よく認められる疾患になります。結腸捻転による開腹手術の生存率は5-8割と報告されており、近年の報告では生存率88%と高い値を示す報告も認められます。
結腸捻転は1-3割程度再発することが知られており、この再発を予防するために実施される予防手術の1つが、結腸固定術となります。
結腸固定術はこれまでにいくつかの方法が報告されています。今回、紹介する方法はこれまでに報告されていない新たな固定方法の1つです。
興味深い内容となっているため紹介いたします。
今回紹介する論文は、
Clinical outcomes after colopexy through left ventral paramedian incision in 156 thoroughbred boodmares with large colon disorders (1999-2015)Veterinary Surgery 2018; 1-9になります。
それではSummaryの和訳です。
Summary
目的傍正中切開からの結腸固定術の術式について記載し、さらにその術後成績について報告。
研究デザイン回顧的調査
動物156頭のサラブレッド種繁殖雌馬が調査対象。調査馬は1999年から2015年までに傍正中切開からの結腸固定術を実施されている。
方法医療記録から術後の合併症および生存について調査した。手術から1年後の生存率を医療記録、産駒記録もしくは顧客への電話調査により基づき算出した。産駒記録から繁殖成績を算出した。統計解析にはT-検定、χ2乗検定、logistic regression、Kaplan-Meier生存曲線を用いた。
結果術後の結腸捻転および結腸破裂の発生率はそれぞれ、1.2%および3%であった。
93%の繁殖雌馬が生存し、病院を退院した。さらに1年後には78%の繁殖雌馬が生存した。1年後の生存率を低下させる合併症としては以下の合併症が挙げられた。
SIRS(全身性炎症反応症候群)、下痢、and/or 血栓性静脈炎 (オッズ比 4.76)。
手術時もしくは退院時までに受胎が確認された繁殖雌馬のうち66%では無事に分娩し生仔を得ることができた。結腸固定術後の繁殖雌馬の年間生産率は67%であった。
結論サラブレッド繁殖雌馬に対する傍正中切開による結腸固定術の予後は良であり、生存した牝馬は引き続き繁殖雌馬として活躍できた。SIRS、下痢および静脈炎は長期間の予後に影響を与えた。
感想
この論文は米国、ケンタッキー州にあるRood and Riddle馬診療所のデータをまとめたものになります。傍正中切開から結腸捻転を整復し、さらにその術創を閉創する際に、左腹側結腸の腸ひもを縫い込むことで左腹側結腸を腹壁に癒着させ、結腸捻転の再発を予防する固定方法です。
これまでに様々な術式の結腸固定術が報告されています。
ポピュラーな術式の一つに正中切開の閉創時に左腹側結腸の腸ひもを縫い込む方法があります。ただし、この方法では、もし、再度疝痛により開腹手術が必要となった場合に問題が生じます。通常であれば正中切開で開腹しますが、この術式で結腸固定術が行われた馬では結腸を破らないように慎重に開腹する必要があります。しかも、時には結腸固定されているのかについての情報が無い中で実施するため、高いリスクが伴います。
今回、報告された、術式ではそのようなトラブルがありません。さらに、術創の離開や術創ヘルニアなども発生しないようで素晴らしい結果です。
ただ、私が開腹手術をするなら、慣れている正中切開を選択してしまいます。
傍正中切開で結腸捻転を整復するのは、正中からのアプローチに比較し困難なように思えます。さらにいえば、結腸捻転を疑ったけど、違う原因だった場合にも私自身が傍正中切開で対応可能か疑問が残ります。
現在、私は他の方法での結腸固定術を実施しており、その術式は現在のところ良好な結果を得ています。
今後、現在の方法を改善する必要がある場合、この論文の内容をぜひ参考にしていきたいと思います。
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