牛の骨折;内固定手術 Vol.4;上腕骨

まとめ


  • アプローチ方法は背側アプローチ
  • プレートの形状をよく上腕骨に合わせる
  • 遠位の螺子はやや内側方向に



はじめに

上腕骨の骨折は遭遇することは比較的稀だと考えられます。
僕自身はこれまでに1例のみ遭遇した経験があります。
その症例は仔牛であり、上司が内固定手術を実施し、無事に治癒していました。

馬では上腕骨骨折の内固定手術は難しいようで、AOVETのホームページ上でも上腕骨骨折の部分は現在までに公開されていません(2019年3月8日)。

牛でも同様に上腕骨の内固定手術は難しいようです。
それでは今回はBovine OrthopedicsのPlates, Pins, and Interlocking Nailsの章から上腕骨骨折について勉強していきます。


上腕骨へのアプローチ

上腕骨へのアプローチは上腕骨の背側に大きな筋肉があるため困難だと記載されています。また、上腕骨の背側には橈骨神経が走行しており、内固定の際にはこの神経を損傷しないように注意が必要となります。
上記のような困難な条件がありますが、アプローチを頭側アプローチにすることで少しでも容易に上腕骨にアプローチすることが可能だと記載されています。

これまで屍体で確認してみたところ、やはり頭側からのアプローチは良好な視野を確保できると思います。ただし、体重の重い牛ではダブルプレートを行う必要があり、外側にプレート固定を行う場合は頭側アプローチではやや難しいかもしれません。
しかしながら、内固定に用いるプレートが1枚であっても2枚であっても頭側にプレート固定を行う必要があり、背側のプレートがもっとも重要であることを考えると、背側からのアプローチがもっとも適切なアプローチであると思います。


プレートの形状

上腕骨の遠位は大きく曲がっています(Radial Fossa)。このため、背側のプレート遠位はこの大きく曲がった形状に合わせることが大変重要となると記載されています。
上腕骨の遠位は複雑な形状をしており、ドリリングの際には関節内に至らないようにドリリングの方向を注意する必要があると記載されています。

上腕骨の遠位は非常に強く曲がっており、プレートの形状を正確に形成する必要があるようです。また、上腕骨の遠位ではやや内側報告にドリリングを行わなければ関節を貫く危険性があり、この点も注意が必要だと思います。


上腕骨骨折内固定

上腕骨のプレートによる内固定手術はよく失敗すると記載されています。
これは成長した牛では体重が重く、若い牛では骨が柔らかく固定力が維持できないためだと記載されており、結果として牛の上腕骨骨折の予後はGuardedからPoorであると記載されています。

私も成長した体重の重い牛では上腕骨の内固定手術は良い結果が得られないと考えています。AOVETの成書では馬の上腕骨骨折についての記載があり、こちらでも体重一定以上重い馬では内固定手術は困難であると記載されていました。
このような理由から300kgを超える牛での上腕骨骨折の内固定は難しいと考えています。
これに対して、体重が比較的軽い仔牛であれば、内固定をうまく行えば良好な結果を得られる可能性は十分にあると考えています。
今後は屍体などで練習を重ね、準備をしておきたいと思います。


上腕骨骨折のこれまでの報告

10本の論文で合計17頭の上腕骨骨折に対して内固定手術が実施され、成績が報告されています。
プレートによる内固定はこのうち7例で5例については良好な治療成績を得ることができたと記載されています。治癒症例では重いもので250kgの牛でも成功しています。
良好な治癒が得られなかった2症例では1例は4歳の成牛で難しい症例だったように思えます。そう考えると、牛の上腕骨骨折はプレートによる内固定で比較的良好な結果を得ているような気がします。

2 Clamp rod internal fixatorsでの内固定が3例報告されています。
これがどのような内固定方法なのか正直、私にはわかりません・・・。
この3例では1例は治癒したものの、残りの2例ではインプラントが破損したと報告されています。ただ、この3症例は300-450kgとかなり体重の重い症例です。

PinもしくはNailは7例で使用され、5例は治癒し、1例では予後不良となり、1例では予後不明となっていました。これらの結果からPinやNailでも治療においても比較的良好な結果が得られていると考えられます。



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