まとめ
- 子宮頸管裂創は手術による再建が可能
- 手術後の受胎率は63%
- 保存療法の受胎率は48%
- 発症から25ヶ月以上経過した症例では手術後、低受胎率
はじめに
子宮頸管裂創は繁殖雌馬の不受胎の原因の1つです。過去の記事でも触れましたが、
子宮頚管の裂創は繁殖能力の低下を引き起こすことがこれまでにFossら (1994)により示されています。この原因としては子宮頚管の閉鎖不全(Brown 1984)、子宮内への持続的な細菌感染(1979)が考えられています。
今回の記事では、
子宮頸管の裂創に対する再建術の成績についてまとめられた論文を紹介します。
今回、紹介するのは、
Post operative fertility in mare with cervical defects(Makloski et al. 2009)となります。
それでは、Summaryの和訳です。
Summary
この研究では218頭の子宮頚管に問題を認めた繁殖牝馬の調査が行われた。145頭の子宮頚管の裂創のために頚管再建術を受けた。42頭は頚管の癒着のため、癒着の剥離手術を受けた。31頭に関しては頚管に問題があることがわかったが、特に外科的な治療を受けなかった。
調査対象となった繁殖牝馬の94%は診断時までに複数回の分娩を経験していた。調査対象の66%の頚管では腹側に損傷が認められた。26%では背側、6%では横側に損傷が認められた。統計的な有意差は認められなかったものの、背側に損傷が認められた繁殖雌馬では頚管再建後、70%が分娩したが、腹側に損傷が認められた繁殖雌馬では、分娩は55%の雌馬にとどまった。手術ごの平均産仔数では背側損傷群では1.51頭なのに対し、腹側損傷群では1.07頭であった。
また、子宮頚管裂創の再発率は20.3%であった。つまり、5頭に1頭が分娩時に再び頚管の裂創を引き起こした。手術前に長期間にわたり不受胎であった繁殖雌馬では手術後の成績が短期間の不受胎の繁殖雌馬に比較し、有意に悪い結果となった。長期間にわたり不受胎であった繁殖雌馬では手術による繁殖成績の向上は認められなかった。子宮頚管裂創の繁殖雌馬において、とくに不妊の期間が25ヶ月以上の繁殖雌馬では術後に生仔を得られる可能性が著しく低下した。(約30%)
頚管再建術を受けた繁殖雌馬の翌年の生産率は63.1%であり、手術を受けなかった繁殖雌馬の生産率は48.4%であった。
感想
この論文は正式な英文雑誌に受理されたものではないようだ。とは言え、
かなり多くの症例について追跡調査されている非常に貴重な論文だと思える。
この論文の要点は以下の点だと考えている。
まず、子宮頚管裂創が認められた馬であっても再建術を受けなくとも48.4%の繁殖雌馬で翌年、生産可能であること。
さらに手術を受けたとしても、その翌年の生産率は63.1%であること。
これらの点は手術適応について検討する場合に非常に重要な情報となると考えています。
そして重要な点としては、もし、手術の適応例であるのなら、早めに手術を行う必要があるという点です。
これは、子宮頚管裂創に伴い、感染性の子宮内膜炎を併発するためで、慢性の子宮内膜炎に進行した場合、その後の生産能はこの論文で示されたように低い値となることがわかります。
そのため、子宮頚管の裂創を診断した場合、
手術までの時間が長くなれば、それだけ受胎・分娩のチャンスが低下することを理解しておく必要があります。
具体的には発症から24ヶ月以上経過した症例では、慢性子宮内膜炎となり、著しく受胎能力が低下することが示されています。このため、子宮頸管裂創を診断した場合、このデットラインを意識し、治療に当たる必要があります。
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