まとめ
- 腱鞘損傷に対しては発症後36時間以内に治療実施
- 腱鞘のみの損傷では良好な予後
はじめに
感染性腱鞘炎は比較的、稀に遭遇する疾患だと思います。昨年1年間で感染性腱鞘炎の診療頭数は10頭程度だったと記憶しています。治療方法としてはNeedle-to-Needleでの腱鞘洗浄、腱鞘鏡手術による腱鞘洗浄、全身性の抗生剤投与などが挙げられます。
今回の記事では外傷性腱鞘炎に対する手術成績を報告した論文を紹介いたします。
今回紹介する論文は
Tenoscopic surgery for treatment of lacerations of the digital flexor tendon sheath
EVJ (2004) 36. 528-531.
となります。
それではSummaryの和訳を示します。
Summary
Reason for performing study:The digital flexor tendon sheathの損傷は馬では一般的に認められるが、その予後に関する報告は限られている。
Objective:受傷後36時間以内に腱鞘鏡手術にて腱鞘の洗浄、デブライドメント、整復を実施された馬では予後が良好であることを明らかにする。
Methods:調査期間は3年間であり、DFTSの損傷により外科的治療を施された39例について調査を実施した。症例は受傷から手術までの期間が36時間以内のものと36時間以上のものの2群に分類した。損傷部位、年齢、性別、飼養目的、そして治療結果について調査した。
Results:16頭ではDFTSの損傷および汚染のみが認められた。手術後16頭中15頭でそれぞれの飼養目的を達することができた。16頭では浅屈腱損傷が認められ、このうち12頭が復帰した。6頭は浅屈腱および深屈腱の損傷が認められ、5頭は手術中に安楽殺となり、1頭はパドック放牧が可能なまでに改善した。受傷後36時間以内に外科的治療を実施できた群は受傷後36時間以降に外科的治療を受けた群に比較して、有意に飼養目的を達せられる可能性が高かった。(36時間以内; 25/28, 36時間以降; 2/5)
Conclusion:感染に対して早期に腱鞘鏡手術を用いて洗浄および抗生剤投与の治療を行った場合、競技馬もしくは競走馬としての復帰を制限する要因としては腱損傷が挙げられる。
Potential relevance:早期に腱鞘感染症に対して治療を行うことで、良好な予後を得ることができるというこれまでの定説を支持する結果が得られた。
感想
これまでの私の診療経験では関節に達するような外傷では多くの馬が速やかに手術施設に搬入され、外科的治療治療を受けているケースが多いのに対して、腱鞘に達するような外傷ではなかなか速やかに手術施設に搬入されるケースは少ないように思える。ただ、関節であっても腱鞘であっても、すみやかに外科的な治療を受けることでその予後は良好になるようだ。
今回の論文では受傷後36時間に外科的治療を受けることで良好な予後を得られることを示している。
僕らが臨床の現場で注意しなければならないことは、その外傷が腱鞘に達しているのか、腱には損傷が認められるのかについて正確に評価することなんだろう。
特に繋部の掌側もしくは底側の刺創では腱鞘まで創が達しているのか注意深く診断する必要があると考えられます。
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