はじめに
牛のX線検査画像に関する情報は少ない。このため、多くの牛臨床獣医師にとってどのような撮影方法でX線検査を実施するのか不明な点が残っていると思う。過去には
「牛の感染性関節炎とX線画像診断」という論文をこのブログでも紹介しています。
今回、ご紹介する「骨折のX線画像診断」の論文も過去の「牛の感染性関節炎とX線画像診断」と同様に鳥取大学の柄先生が著者となります。
今回、ご紹介する論文は
牛の骨折治療のABC 「骨折のX線画像診断」 臨床獣医 July 2018 柄武志
です。
論文紹介
この論文では牛の骨折におけるX線画像診断について条件、撮影方法、そして留意点について記載してあります。実際に牛のX線検査を実施する際に参考になるポイントが多く示してあり、非常に有用な論文だと思います。特に重要なポイントだと思う点をいくつか挙げていきます。
- 1. 子牛の骨折、育成牛、成牛での 四肢末端の骨折はポータブルX線装置で診断可能
- 2. 250kgを超える育成牛の股関節など、 筋肉の厚い部位では中型以上のX線装置が必要
- 3. 必ず2方向以上から評価;側方像・頭-尾像
- 4. 正常肢との比較が大切
- 5. 肩骨骨・上腕骨は前肢を牽引し撮影
- 6. 大腿骨の撮影は横臥位にして 後肢を持ち上げ内外で撮影
この論文のポイント7点に対しての
僕の考えは以下の通りです。
1. 子牛の骨折、育成牛、成牛での 四肢末端の骨折はポータブルX線装置で診断可能
この論文で指摘されているように牛の四肢末端はポータブルX線装置で撮影・診断可能だと思います。実際に馬では成馬であっても四肢末端のX線検査はポータブルX線装置で検査可能です。来院している牛の症例を経験してみると、前肢であれば、肩甲骨遠位、上腕骨まで、後肢であれば、大腿骨遠位、脛骨までは撮影可能でした。2. 250kgを超える育成牛の股関節など、 筋肉の厚い部位では中型以上のX線装置が必要
筋肉の厚い部位はポータブルX線装置での撮影はこの論文で示されているように難しいと思います。最近、僕は立位での馬の股関節X線検査をポータブルX線装置で実施しています。この経験から牛でも立位で股関節のX線検査ができる可能性があると考えています。今後、DRが牛の臨床分野でも広く使われるようになってくれば、ポータブルX線装置で股関節描出可能になってくると予測しています。
3. 必ず2方向以上から評価;側方像・頭-尾像
この点も非常に重要だと思います。1方向からのX線検査だけでは骨折を見逃す可能性があるので必ず2方向以上から撮影することが大切なんだと思います。いずれは馬のように規定された撮影方向が決定すると、より良いX線検査が実施できるようになると考えています。
4. 正常肢との比較が大切
X線検査を実施し、診断・判断がつかない場合は反対側の正常肢と比較することが重要だと指摘しています。僕も馬の診療で診断がつかない場合には反対側の撮影を実施し、比較して診断しています。5. 肩骨骨・上腕骨は前肢を牽引し撮影
肩甲骨、上腕骨のX線検査はここで記載されているように前方に牽引することで撮影可能でした。馬のX線検査と同様の方法ですが、非常にわかりやすく記載されています。6. 大腿骨の撮影は横臥位にして後肢を持ち上げ内外で撮影
この方法だと大腿骨の近位まで撮影可能でした。子牛だとこのまま股関節の撮影も可能です。この情報は非常に有用でした。今回のこの論文は牛のX線検査を実際に行う場合に有用な情報が多く含まれていました。
特に大腿骨、上腕骨、そして肩甲骨の撮影方法について実践的な内容が含まれています。
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