牛の感染性関節炎とX線画像診断 (柄 2019)

はじめに

前回は牛のX-ray画像の撮影方法とピットフォールについての論文を紹介しました。

今回は学術誌ではなく、商用雑誌に牛の感染性関節炎のX線画像診断という記事を発見しました。

私自身の経験では、馬の感染性関節炎には高い頻度で遭遇しますが、牛の感染性関節炎はまだ経験がありません。
これは、私が牛の往診診療をしたことがないからで実際に往診診療をしている獣医師にとってはそれほど珍しくない疾患なのかもしれません。

感染性関節炎に限定されているとはいえ、貴重な牛のX-ray画像診断に関する記事ですので、早速コピーをとり、目を通してみました。

今回、ご紹介する論文は、
牛の感染性関節炎のX線画像診断 柄武志
MPアグロ ジャーナル 2019. 10月号 p24-27
になります。


牛の感染性関節炎のX線検査画像




この論文では、牛の感染性関節炎に対する臨床検査としては、外貌検査、歩様検査、関節の可動検査、血液検査、細菌検査、関節液検査、そして、画像診断が挙げられると記載されています。感染性関節炎に対する画像診断ではその病態を視覚的に確認することで診断および予後判定ができること点が有用な点であることが記されています。

私は牛の感染性関節炎の経験はないものの、馬の感染性関節炎については多くの症例を経験しています。この論文で、著者が示したようにX-ray検査は感染性関節炎の重症度判定、予後診断に有用な検査方法であると考えています。
馬の感染性関節の場合、来院し関節洗浄を実施する症例では、可能な限りX-ray検査を実施するように心がけています。


牛の関節のX線撮像法



著者は、牛の運動器のX線検査では少なくとも2方向からのX線撮像を行う必要があると記載しており、2方向は一般的には側方向と頭尾方向であると記されています。
また、注意点として両方の肢を同一のX線画像内で撮像することは避けるべきだと記載されています。
さらに、四肢疾患の場合、正常肢を比較対象として撮像することでより適切な診断を行えることが記されています。

この記載内容は馬のX線検査を実施する場合にも非常に有用な内容です。馬では多くのX線検査に関する教科書が入手できるため、常に対側肢を撮影する必要はありませんが、それでも、必要な症例では対側肢の撮影は重要な情報となります。

この論文では、近位関節の撮影方法について記載されています。

肩関節の撮影方法としては、
立位で前肢を頭側に牽引し、側方向から撮影する方法、頭尾像は立位では撮影困難と記載され、横臥位で前肢を上にし、背中方向に牽引し撮影する方法が紹介されています。

立位での肩関節の撮影方法は馬で実施している方法に一致します。私もこの方法で肩関節を撮影する方法を好んで実施しています。2歳以上の馬では大型X-ray発生装置を使用する場合もあり、その際は全身麻酔を実施し、横臥位で撮影する場合が多いです。

論文の著者は股関節の撮影方法として、
立位での撮影は推奨していません。仰臥位で後肢を尾側に牽引、伸展させた状態で股関節内側からX線を照射する方法と推奨しています。

私の勤務する診療所では、馬に対して著者と同様に仰臥位での撮影を実施することが多いのですが、ここ最近は立位での股関節撮影にも挑戦しています。今後は牛でも立位での股関節撮影が実施可能か検討してみたいと思います。

著者は牛の膝関節撮影に関しても記載しています。
牛の膝関節は立位での撮影は困難だと記載されており、横臥位し、撮影肢を挙上、牽引し、外側にプレートをあて、内側から照射する方法が紹介されています。頭尾方向についても同様の体勢で撮影する方法が紹介されています。

馬では立位で容易に膝関節の撮影が実施可能です。
このブログのメインテーマであるレポジトリーにも膝関節のX-ray検査は取り入れられており、撮影方法も確立しています。牛での撮影に私も挑戦しましたが、著者が指摘しているように横臥の方が撮影しやすいと思います。ただ、頭尾方向に撮影するよりも、尾頭報告に撮影した方がより容易に撮影できると考えています。

さらに関節内空気造影について論文では記載されていましたが、私はあまり実践しなそうなので、今回は割愛します。
興味がある方はぜひ本文を読んでみてください。

牛の感染性関節炎のX線読影


この論文ではX線読影についても記載しています。
著者は牛の感染性関節炎のX線読影で大切なポイントとして、関節の腫脹、関節間隙の拡大、関節内ガス貯留、骨吸収または骨増生の4つを挙げています。

骨吸収は発症後2-3週間後に描出されることが多いため、発症直後に描出されることは少ないと記載されています。

馬の感染性関節炎では骨髄炎の合併症が一定数認められるため、X-ray検査を実施するように心がけています。特に長期の経過を示す症例については必ずX-ray検査を実施するようにしています。今後は今回の論文を参考に、発症から2-3週間後に再度、X-ray検査を実施すべきかもしれません。





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