馬;大腿骨内側顆ボーンシストに対する螺子挿入術の治癒 (Frazer et al. 2019)

はじめに

大腿骨内側顆のボーンシストに対する螺子挿入術は Dr. Santschi らにより開発された手術方法です。これまでに、Dr. Santschi らは屠体での大腿骨内側顆のボーンシストモデルを用いてこの手術方法がボーンシストを安定させることを示し、さらに実際の症例でも手術後に跛行の軽減、ボーンシストの縮小が認められ、治療効果を示したことを報告しています。

この方法は賛否両論あるようですが、僕は実際にこの手術方法を行ってみて、効果的な手術方法だと手応えを感じています。

今回の論文では、Dr. Santschiらが大腿骨内側顆のボーンシストモデルを作成し、螺子挿入術の螺子挿入部位や負重が治癒にどのような影響を与えるのかを検討しています。

今回、ご紹介する論文は
Frazer, L. L., Santschi, E. M., & Fischer, K. J. (2019). Stimulation of subchondral bone cyst healing by placement of a transcondylar screw in the equine medial femoral condyle. Veterinary Surgery.
です。

それでは、簡単に論文内容を紹介します。

論文内容


この論文の目的は大腿骨内側顆に対する螺子挿入術を実施した場合の骨形成刺激を明らかにすることです。
論文では1歳馬の屠体からCTデータを得て、そこに2cm3の大腿骨内側顆ボーンシストを作成、このボーンシストモデルに対して、骨形成刺激を >60MPaと設定し、患部への負重について検討しています。負重の程度、回数、螺子の位置について検討を実施しています。

研究の結果、骨形成は1日の刺激回数が多いほど促進されることが明らかとなり、早期の運動再開が良好な骨形成を促進することが示されています。
また、螺子挿入前のモデルではボーンシストに対して横方向に広がる力が加わるのに対して、適切な位置に螺子挿入を行うことで、ボーンシストに対して長軸方向に適切な力が加わることが明らかになりました。

また、螺子の位置についてはボーンシストに対して斜めに軸外から体軸方向にラグスクリューとして挿入した場合は効果が認められたものの、ボーンシストの頂点をかすめるように関節面を平行に螺子を挿入した場合の効果は限定的でした。

このような結果から、著者らは、大腿骨内側顆に対して適切な位置にラグスクリューを挿入することで骨形成刺激を促進することができること、および、螺子の圧迫力、負重、1日の歩行回数が増加することで骨形成刺激が促進されることを明らかにしました。

この論文では、これまでに科学的に明らかにされていなかったボーンシストに螺子を挿入した場合の治癒の様子を予測しており、臨床的に非常に有意義な情報です。

特に、実際の臨床で有用な情報は

  1. 螺子の位置は、ボーンシストを斜めに跨ぐように挿入
  2. 挿入はラグスクリュー法
  3. 術後2週間から引き運動開始

の3点です。

1,2点目は主に手術の手技に関する情報です。
1点目については、やはり上手く斜めに螺子を挿入することが大切だと再確認しました。ボーンシストが小さい場合にはシストの近位をかすめるように挿入しても効果があるとの記載がかつての論文にありましたが、今回の研究結果を見る限りは完全にシストを跨ぐ必要がありそうです。

また、2点目については、今回の研究ではポジションスクリューとラグスクリューの比較が行われていません。ただ、今回の結果から少なくともラグスクリューでは良好な治癒が期待できることが明らかとなりました。
現在、私はポジションスクリューを挿入するケースも多いため、今後、可能な限りラグスクリューを挿入していきたいと考えています。

今回の論文で最も有用な情報は3点目です。早期の運動開始がボーンシストの骨形成に非常に有用な刺激であることがデータから示されています。
私の症例は Dr. Santschi の論文に比較し、やや復帰までに時間を要すると感じていましたが、どうやら術後の運動プログラムにその原因の一端があったようです。
今後は運動プログラムを改善し、復帰までの日数を減少させるよう取り組んでいきたいと考えています。

Dr. Santschi のボーンシストに関する一連の論文は非常に素晴らしいものだと思います。まさに臨床獣医師が欲しい手術方法を開発し、その有用性について科学的に証明しています。私も一人の臨床獣医師としてDr. Santschiのような素晴らしい仕事ができるよう日々研鑽したいものです。



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