はじめに
牛のX-ray撮影に関する情報は限られているように思います。Amazonで牛のX-rayの教科書を探してみましたが、販売中の目星い教科書を見つけることができません。国内では、CD-ROMの牛のX-ray教科書が作成されていますが、臨床獣医師に広く普及している訳ではないようです。
正常な牛のX-ray画像については馬に比較し入手しにくい状況ですし、撮影角度等の撮影方法についての記載もなかなか見つけることはできませんでした。
Google Scholar で検索してみると、日本語で興味深い論文を発見しました。
産業動物臨床医誌 2018, 8号に記載されている
”牛のレントゲン撮影の基礎とピットフォール”
という論文です。
今回は、この論文を紹介したいと思います。
この論文では2017年に著者の三浦直樹先生が九州沖縄産業動物臨床研究会にて教育公演した内容を元に構成されています。
主な、論文の内容としては、X-ray検査の撮影条件による画像の違い、読影時に必要な4つのピットフォールについて記載されています。
X-ray画像の撮影条件と撮影時のポイント
まずはX-ray検査の撮影条件による画像の違いについて記載されています。
ここでは具体的な撮影条件等について記載されているわけではありません。
この章での著者の記載の要点は、Kvをあげた条件ではより骨が鮮明に確認でき、Amを上げた条件では肺野の血管がより鮮明に確認できることです。
この章では実際の撮影条件について詳細な記載がありません。これは、近年ではCRやDRといったデジタルファイルでのX-ray画像読影が多くなっているため、撮影条件について細かく記載する必要がないのではと考えました。
実際の臨床現場での撮影ポイントについても記載されています。この論文ではX線発生装置と被写体との距離を一定にすること、イメージプレートをできるだけ被写体に密着させること、X線発生装置とイメージプレートを保持する技術者が動かないように注意することが挙げられています。
私も経験から上記のポイントは撮影に際して重要だと考えています。
さらに加えるとX線発生装置の照射角度とイメージプレートの角度が一致していることが大切です。照射角度に対してイメージプレートが垂直に保持されていなければ、X-ray画像に歪みが生じて読影に適さない画像となります。
レントゲン読影時のピットフォール
この論文ではX-ray画像読影時の4つのピットフォールについて記載されています。
4つのピットフォールは
1. 拡大と変異効果
2. 形をよく知っているものが形状変化したことに対応できない
3. 奥行きに対する感覚の消失
4. 前後の重なりによる透過性の変化
だと記載されています。
まず、著者らは”拡大と変異効果” について記載しており、イメージプレートから被写体までの距離が大きくなるほど、実際の被写体の画像が拡大されると記載されています。
私の経験でもこの点には注意が必要だと思います。
特に左右の四肢を撮影し、比較する場合、いずれの肢も同じ条件で撮影しなければ比較は困難になります。また、骨折片の大きさについても、適切な判断を行うためにはこの画像の拡大が最小限で済むようにイメージプレートをしっかりと被写体に密着させる必要があると考えています。
次に著者らは、”形をよく知っているものが形状変化したことへの対応ができない” について記載しています。
私もこのような問題について経験があります。示しやすい例では、馬の金属片を中心とした食道梗塞症例で経験している。左ー右方向の撮影では一直線の金属片のように思えたが、背ー腹方向の撮影ではタッカーの芯であることがはっきりと確認することができました。X-ray画像はあくまでも影絵のように平面でしか評価することができないため、判断を下すためには2方向以上のX-ray撮影が必要だと考えています。
さらに著者らは ”奥行きに対する感覚の消失” について記載しています。このピットフォールは奥行きがあるものが重なっていることで錯覚する現象であると記載されています。このピットフォールは頻繁に陥りやすいが、同時に角度を変えた複数の撮影を行うことで回避することができると記されています。
私の考えではこのピットフォールは前述されている "形をよく知っているものが形状変化したことに対応できない” と同様に、複数方向でのX-ray撮影を実施することで避けることが可能です。このピットフォールは牛の四肢骨折症例で多く認められる場合が多く、骨折症例に対しては診断時やキャストでの外固定時にも複数方向からの撮影が必要であると考えています。
さらに著者らは "前後の重なりによる変化” について記載しています。
著者らはこのピットフォールについて、X線が入射され最初の臓器に吸収されると、その後ろに位置する臓器をマスクしてしまうことがあると記載しています。
私はこのピットフォールについても前回の ”形をよく知っているものが形状変化したことへの対応ができない” 、”奥行きに対する感覚の消失” と同様に複数方向からのX-ray撮影にうより避けることが可能だと考えています。
このようにこの論文で示されている多くのピットフォールは複数方向からの撮影により避けることが可能です。このため、適切な診断を行うことができない場合、追加でのX-ray撮影が適切な診断の助けとなると思います。
最後に著者らは実際の症例について紹介しています。
この部位については今回の記事では省略しますので、ぜひ本文を確認指定みてください。
この論文では牛のX-ray撮影時の注意点とピットフォールを中心に記載されていました。
牛のX-ray撮影を実施するための参考になると思います。
今後、正常な牛のX-ray画像見本が入手でき、撮影角度等の撮影方法について統一された基準が作成されれば、より牛のX-ray検査が普及すると思っています。
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