はじめに
今回は毎年、開催されている強い馬づくり講習会に参加してきました。今年のテーマは "乳酸” です。3人の講演者が乳酸をテーマに講演しました。
個人的には非常に興味深い内容でしたので、忘備録として、内容をまとめ、感想と合わせて記録しておきたいと思います。
乳酸をどう考え 利用したらよいのか
東大の八田秀雄先生による講演です。
”乳酸” とは糖を分解する途中でできるエネルギー基質であり、疲労を防ごうとしてできるものだと学びました。
特にサラブレッドでは乳酸との関係が深いようで、速筋繊維が多いため、多くの乳酸が作り出されること、さらに中間型速筋繊維も多く、筋肉内のミトコンドリアにより多くの乳酸がエネルギー源として利用されているとのことです。
乳酸は糖分解の過程で作られるもの。糖分解は運動開始時に過剰に起こるため、その際にすぐに利用しきれないピルビン酸の一部が乳酸として備蓄され、中間型速筋繊維、遅筋繊維、心筋でエネルギー源として利用されているようです。
実際に2000mの調教では運動開始時に血中乳酸値の著しい上昇が認められ最後の500mでは乳酸がエネルギー源として利用されているためか血中乳酸値の低下が認められているようだ。
競走馬に対するトレーニングとしては、乳酸値作業閾値と呼ばれる血中乳酸値濃度が上がり、糖の利用が高まり、脂肪の利用が低下する運動強度で負荷をかけることが必要だとおっしゃっていた。この運動強度で調教を実施することで速筋繊維を強化、筋肉内のミトコンドリアを増やすことができるようだ。特に高強度インターバルトレーニングを実施することはミトコンドリアを増やすためには有用な方法だとおっしゃっていた。
ただし、注意点として高強度トレーニングはヒトのアスリートでも週3回が限界なようで、馬では週2回が適切な程度だと思われるようです。
JRA日高育成牧場における乳酸を指標として育成調教
JRA日高育成牧場の冨成先生による講演です。
JRA日高育成牧場では血中乳酸値を運動強度の確認、個々の馬の体力を確認、運動強度の目標設定の指標として利用しているとのことです。
現在は高強度トレーニングの乳酸値の目標を15mmol/Lと設定し調教を実施しているようです。またJRA日高育成牧場ではトレッドミルによる高強度トレーニングも実施しており、こちらでも同様に15mmol/Lを目標にトレーニングを実施しているようです。
ただし、高強度トレーニングの目標乳酸値をどの値に設定すべきなのかは現在検討中とのことで、15mmol/Lが適切な値かはわからないとおっしゃっていました。
科学的トレーニングの可能性
エクワインレーシングの瀬瀬先生による講演です。
瀬瀬先生の講演はまさに育成に携わる獣医師の話で非常に楽しい講演でした。
エクワインレーシングでは坂路初日、2回目に血中乳酸値を測定、さらに月1回、追い切り時にも血中乳酸値を測定し調教のグループ分け、オーバーワーク、負荷不足の判断、そしてトレーニング効果の判定に用いているようです。
お話の印象としては、JRA日高育成牧場に比較し、より高強度のトレーニングを実施し、やや高い血中乳酸値を目標に設定しているように感じました。
また、個別の事例として、騎乗者は一杯に運動させているつもりでも血中乳酸値は高い値を示さない事例について、血中乳酸値を指標に運動強度をさらに上げることで馬の体つきが著しく良化したことを教えていただきました。
この事例は育成現場での血中乳酸値利用方法として実践的で有意義な情報だと思います。
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