はじめに
馬の腕節での剥離骨折は競走馬では発生率の高い疾患です。私の年間の手術数でも腕節、剥離骨折に対する関節鏡手術は飛節の関節鏡手術と同様に最も執刀数の多い手術の一つです。
頻繁に遭遇する箇所は橈骨遠位の外側、ついで橈側手根骨遠位が続きます。
橈骨-手根骨間関節の剥離骨折では予後が良好なことが知られていますが、手根骨骨間関節では橈骨-手根骨間関節に比較し、予後が悪くことが明らかになっています。
特に手根骨骨間関節の内側での剥離骨折は予後が悪い印象を受けています。そのため橈側手根骨遠位および第三手根骨の橈側面での損傷では予後判定やリハビリに注意が必要だと考えています。
今回は診断が難しい第三手根骨橈側面の損傷?症例に遭遇したため、そのX-ray所見と手術所見について記録しておきたいと思います。
症例
症例は左橈骨遠位端の剥離骨折が認められ、関節鏡手術のため来院しました。ただし、症状としては右前肢の跛行があり、右腕節のX-ray写真撮影では、軟骨損傷と診断されたようです。
来院時には、左の橈骨-手根骨間関節の腫脹に加え、右の手根骨間関節の腫脹を認めました。
全身麻酔下で右第三手根骨のSky View写真を撮影すると、
下記のようなX-ray画像が得られました。
ごくわずかに透亮像が認められるものの、骨折線ではないようです。第三手根骨の矢状骨折も疑い、わずかに内外から撮影するようにSky View を撮影しましたが、やはり骨折ではないようです。
関節鏡所見
関節鏡では透亮像の部位は硝子軟骨の表面に小さな凹凸があり、周囲に比べやや黄色味がかっています。エレベーターで触診すると容易に軟骨が剥がれ、軟骨下骨も容易に崩れていきます。
おそらくこの箇所が変性し、疼痛を示していたのでしょう。
今回は、容易に掻爬できる部位については掻爬し、デブリスを洗い出し終了としました。
特に他の箇所に所見を認めなかったことからも、この箇所が疼痛の原因だと推測しています。
関節鏡の教科書でこのような所見が記載されていないか、探してみましたが、残念ながら同様の所見を見つけることはできませんでした。
今回の症例では、左橈骨遠位端の手術を実施するため、そのついでに右手根骨間関節を関節鏡検査、手術を実施しましたが、もし、この右手根骨骨間関節の所見のみであれば手術を実施するか、判断は難しいところです。
しかし、疼痛を示し、今回のようなX-ray所見を示すようであれば、個人的には手術を推奨する可能性が高いと考えています。今後、今回の症例の予後を追跡していきたいと思います。
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