大腿骨のボーンシストへの最も良い治療方法は? (O'Bien 2019)

はじめに

今回はEquine Veterinary EducationでTopicとして掲載されていた
”What is the best treatment for medial femoral condylar subchondral bone cysts ?" という論文を紹介します。

久々にレポジトリー にも関係する論文の紹介ですね。

この論文では、これまでに報告された論文から、最も良い治療方法はどの治療方法であったのかを考察しています。
大腿骨のボーンシストについて考える際に参考になるので簡単に紹介します。

今回の紹介論文は、
E. J. O. O'Brien, What is the best treatment for medial femoral condylar subchondral bone cysts ?, Equine Veterinary Education (2019) 31(9) 501-504.
になります。

論文紹介


この論文では、
” 大腿骨内側顆のボーンシストに対する外科治療の予後は保存療法と比較し良い結果なのか? " について過去の報告を調査し、考察しています。

この論文では12本の大腿骨内側顆のボーンシストについての論文から得られた情報を元に保存療法と各外科治療の成績を比較しています。
ちなみに7つの外科治療方法がこの中には含まれており、それらは超音波ガイドでのステロイド病巣内投与、関節切開術+海綿骨移植、関節切開+病巣掻爬、関節鏡での病巣掻爬、関節鏡ガイドでのステロイド病巣内投与、関節鏡での病巣掻爬+軟骨細胞・IGF-1投与、そしてボーンシストへの螺子挿入です。

12本の論文のうち、コントロール群を設定していたのは2本です。

Jacksonらの報告(2000)では実験的に作成した大腿骨内側顆ボーンシストモデルに対して海綿骨移植での治療群と治療なしのコントロール群の成績を比較し、手術後の跛行の程度は治療群、コントロール群で差が認められなかった。

PlevinとMcLellanの報告(2014)では、ステロイドの超音波ガイド下での病巣内投与と関節内投与の治療成績を比較し、超音波ガイド下でのステロイド病巣内投与群の方がより早期に出走し、より少ない回数の治療で良化が認められた。

この論文では、多くの報告について検討がなされていますが、対象、病変の数(片側/両側)、治療歴、診断方法、治療判定が異なるため、直接比較することは困難だと記載されています。このような背景から、全ての報告の成績を直接比較し、治療方法の優劣を判断するのは難しいと記されています。


3つの論文で外科治療後に一過性の跛行が認められています。また、非感染性関節炎が2つの論文で報告されています。これ以外にも関節切開術後の術創離開、一過性の術創周囲の腫脹が報告されています。手術後一過性の跛行はボーンシストへの螺子挿入術の25%で認められています。

私が行っている手術症例についても同様に手術後一過性の跛行が認められると相談される症例があり、おそらく、同程度の発生率だと思います。
螺子挿入術では関節包周囲を切開するため、症例によっては手術後に疼痛を示すと考えています。

これまでの報告では3歳以上の馬では関節鏡手術での予後が2歳以下に比較し悪く(Smith et al. 2005)、同様に螺子挿入術でも3歳以上の馬では若齢馬に比較し予後がよくなかった(Santsci et al. 2015)と報告されています。
しかしながら、関節鏡手術に加え、IGF-1 enhanced chondrocyte を病巣内に移植した論文では年齢での予後の差は認められなかった(Ortved et al 2012)と報告しています。
しかも、このOrtvedらの報告では外科手術前に変形性関節症の所見が認められていても、認められない馬と同様の術後成績を示しているとされており、この治療方法では術前の変形性関節症は治療成績に影響を与えなかったと報告しています。

大腿骨のボーンシストの治療では、治療前の変形性関節症は予後が悪い。これはこれまでの私の経験でも、ステロイド病巣内投与、関節鏡での病巣掻爬、そして、螺子挿入術においても変形性関節症が疑われるX-ray所見があった症例では良い結果を得ることができませんでした。そう考えるとIGF-1 enhanced chondrocyteの効果は気になるところです。

この論文では外科手術を実施した際の予後は保存療法に比較し良好な可能性が高いと報告している。これには2つの理由が示されています。

1つ目としては、6ヶ月以上の保存療法で治癒が認められなかった症例に対して外科手術で良好な成績を得ている報告が少なくとも2本あるからであり(Kold & Hickman 1983, 1984, White et al. 1988)、2つ目の理由としては、5つの論文における外科治療での治癒率(64−85%)が保存療法での治癒率(56%)に比較し高い値を示しているからと報告している。しかしながら、関節切開での病巣のデブライドメントと海綿骨移植 (Kold & Hickman 1983,1984)、高齢馬における関節鏡手術での病巣デブライドメント (Smith et al. 2005)では保存療法よりも治癒率が低い値を示しており、全ての外科治療で保存療法よりも良好な予後を得ることができるわけではないようです。

外科手術の中にはステロイドの病巣内投与よりもより有効なものがあると予測できる。
これは、ステロイドの病巣内投与、関節内投与で良好な結果が得られなかった馬に対して、螺子挿入術で良好な予後を得ていることから推測できます (Santschi et al. 2015)。
Plevin & McLellanの報告(2014)では病巣内ステロイド投与は外科手術と同等の成績を得ることができたと報告しています。

私の経験でもステロイドの病巣内投与で良好な結果を得られなかった症例が、螺子挿入術により良い結果が得られた症例を複数経験している。このため、少なくとも螺子挿入術に関しては、ステロイドの病巣内投与よりも有効だと考えている。

このような背景から、この論文の著者は関節鏡下での病巣内ステロイド投与がほとんどの症例にとって最も適切な初期治療だと考えている。この方法を採用することで、関節鏡により関節内の評価を実施し、関節内に問題があった場合に治療することができるメリットがある。さらに病巣内ステロイド投与は運動復帰までの復帰期間が他の治療に比較し短いという利点も有しています。
さらに論文著者の意見では、ステロイド投与での良化が認められなかった症例については、現状では螺子挿入術が最も適切な治療方法だと記されています。

この著者の結論と私の考えは異なっています。病巣内ステロイド投与は一定の効果が期待できるものの、大型のボーンシストに対しては効果が低いと考えています。また、ステロイド投与により治癒しなかった症例では、ステロイドの効果判定後、螺子挿入術もしくは関節鏡での掻爬術を実施するため、出走までに長期間の時間が必要となります。

このため、現状では、螺子挿入術が実施可能な大型のボーンシストに対しては螺子挿入術を実施、螺子挿入術不適応の浅いボーンシストに対してはステロイドの病巣内投与を実施するのが最も適切だと私は考えています。

また、螺子挿入術実施時に可能であればPRPやIRAPといった補助治療を実施したいと考えています。現在、可能な症例については上記の補助治療を実施していますが、その有用性については検討中です。






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