はじめに
骨盤のX-ray撮影は主に全身麻酔下で撮影することがほとんどです。これは、大型X-rayを使用するため、さらに、診断可能な良いX-ray画像を得るためには綺麗な仰臥の状態で撮影する必要があるためです。
ただし、骨盤骨折を疑い骨盤のX-ray撮影を実施する症例では、全身麻酔の倒馬、起立時に骨折が悪化するリスクがあるため、跛行発症から一定期間経過した後に実施しています。
骨盤骨折の診断には、X-ray検査だけでなく、超音波検査も有用です。ただし、超音波検査では描出できる範囲が限られおり、さらに画像の理解にはある程度の知識と経験が必要です。
馬の関節鏡の教科書に立位での骨盤X-ray撮影の方法が記載されていました。
この教科書では立位での骨盤X-ray撮影方法に関する論文として、
Barrett, E. L., Talbot, A. M., Driver, A. J., Barr, F. J., & Barr, A. R. S. (2006). A technique for pelvic radiography in the standing horse. Equine veterinary journal, 38(3), 266-270.
この論文が紹介されています。
今回はこの立位での骨盤X-ray撮影方法を記したこの論文をご紹介したいと思います。
では、Summaryの和訳です。
研究背景;全身麻酔のリスクを避けるために立位での骨盤X-ray撮影方法が必要
仮説;骨盤の損傷診断のために立位での横斜方向からのX-ray撮影は有用
目的;立位横斜方向からのX-ray撮影の撮影方法と有用性を明らかにすること
方法;立位横斜方向から骨盤のX-ray撮影方法を考案し、実際の症例18例でこの方法を用いてX-ray撮影を実施した症例の回顧的調査を実施
結果;尾側の腸骨体、大転子、大腿骨頭、寛骨臼が本撮影方法を用いて一貫して描出可能であった。18症例のうち、3例は腸骨体尾側の骨折、1例は寛骨臼骨折、2例は寛骨大腿骨関節の脱臼、そして4例では寛骨大腿骨関節および大腿骨近位の骨増生が描出された。
結論;立位での横斜方向からの骨盤X-ray撮影は、立位の馬に置いて腸骨体尾側、寛骨大腿骨関節および大腿骨近位の検査に対して有用な方法である。
潜在的関連性;本方法は明快、非侵襲的で馬の骨盤周囲の診断に有用である。しかしながら、全ての骨盤の異常を明らかにできるわけではない
感想;
具体的な方法としては検査する側の外方向にプレートを当て、30°の角度で対側方向から撮り下ろして撮影することで検査を実施することができる。この撮影方法で得られるX-ray画像はこれまでに仰臥位で得られていたX-ray画像とは異なるため、読影の際には注意が必要だろう。この研究では550kgまでの馬でX-ray画像を撮影できていて、このサイズであっても立位でX-ray撮影できるのはとても素晴らしい情報だと思う。
この論文のDiscussionに記載があったが、550kgを超える馬や太っている馬ではこの撮影方法でX-ray画像を得ることは難しいようだ。
僕らが診療対象としているサラブレッドの場合、550kgまで撮影可能であれば、ほとんどの診療対象馬が撮影可能だろう。特に骨盤のX-ray撮影の対象年齢は1才から現役競走馬の5もしくは6才くらいまでが多く、1才と2才が圧倒的に多い。
この方法をうまく活用していけば、僕らの全身麻酔を必要とせずに、跛行からそれほど時間を必要とせずに骨盤骨折の診断が可能だ。
今後、ぜひ取り入れていきたい。
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