Locking Compression Plateを用いた馬のPIPJointの関節固定術 (Sakai et al. 2018)

はじめに

今回、ご紹介する論文は馬の第一指骨と第二指骨間関節(近位指骨間関節)の関節固定の症例報告です。
近位指骨間関節での関節固定手術は主にこの関節の亜脱臼、変形性関節炎などを対象として実施されます。
近位指骨間関節の亜脱臼は斜種子骨靭帯の損傷に伴い発生することが多いと思います。
これまでに手術適応例と判断したほとんどの症例では近位指骨間関節の亜脱臼でした。
私は主に競走馬、繁殖雌馬の亜脱臼症例に遭遇しており、私と同様に主に競走馬や繁殖牝馬を治療対象としている場合は近位指骨間関節の亜脱臼が主な近位指骨間関節の関節固定術の治療対象となると考えています。

今回、紹介する論文は
Sakai, R. R., Goodrich, L. R., Katzman, S. A., Moorman, V. J., Leise, B. S., Kawcak, C. E., & Galuppo, L. D. (2018). Use of a locking compression plate for equine proximal interphalangeal joint arthrodesis: 29 cases (2008–2014). Journal of the American Veterinary Medical Association, 253(11), 1460-1466.
となります。

それでは早速、abstractを和訳してみます。

Abstract


目的;近位指/趾骨間関節の関節固定術をLocking Compression Plateを用いて行い、その臨床成績について明らかにすること。さらに、手術の原因が第二指/趾骨骨折であったものと他の原因によるものの手術成績の比較を実施すること。

研究デザイン;回顧的調査

対象動物;29例の馬主のいる馬

方法;2つの獣医教育病院における2008年から2014年までの診療記録について調査した。調査対象として1肢で近位指/趾骨間関節の関節固定術を実施した症例とした。
個体情報、外科手術、そして結果に関連する要因を記録した。手術から1−6年後に馬主に連絡し、リハビリ期間、最近の使役状況、馬主の手術に対する満足度について聞き取り調査を実施した。手術成功は馬主の手術に対する満足度および使役状況から判断した。第二指/趾骨骨折に伴う関節固定術を実施した馬と他の要因により関節固定術を実施した馬の2群について調査項目を比較検討した。

結果;14例の症例では第二指/趾骨骨折に伴い近位指/趾骨間関節の関節固定術を実施した。15例の症例では変形性関節炎、亜脱臼、もしくは骨軟骨症により関節固定術を実施した。手術後の回復期間の中央値は7ヶ月(騎乗しない馬もしくは制限されない運動を含む)。4例は安楽殺となった。追跡調査を行うことができた23例中22例で跛行は認められず、内18例では術前の使役に復帰していた。骨折以外の理由により関節固定術を受けた症例では第二指/趾骨骨折に伴い関節固定術を受けた症例に比較し優位に元の使役に戻れる率が高かった。聞き取り調査を実施した馬主24名中22名は手術結果に対して満足していた。

結論;大部分の症例において関節固定術は満足のいく結果となった。この手術を実施する前に整形外科における内固定手術について様々なニュアンスを理解する必要がある。


感想

29例の馬に近位指/趾骨間関節の関節固定術を実施した症例報告。
29例中4例(14%)は手術後、安楽殺なっている。感染、蹄葉炎、対側肢の跛行、そして疝痛のため安楽殺となっている。

聞き取り調査を実施することができた23例中22例では跛行なく、良好な結果が得られたことが示されている。

この症例報告では約半数の14例が第二指/趾骨の骨折に伴い関節固定術を実施している。これは症例の多くがウエスタン馬術に用いらる競技馬であるためだと推測している。
この違いは私が診察対象としているサラブレッド競走馬、繁殖牝馬とウエスタン競技馬の違いによるものだと考えている。

手術成績は非常に良好で、このように強い安定性が必要とされる手術ではDCPに比較しLCPの方がより良い結果が得られると思う。





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