はじめに
牛の骨折治療に関する記述は多くはないと思っていましたが、臨床獣医という雑誌で2018年に『牛の骨折治療のABC』という特集が組まれていました。なかなか興味深い記事だったので前後編、全てで6人の先生により執筆されたこの特集を紹介してみたいと思います。
まず、今回取り上げるのは、日本大学、枝村先生によって書かれた
『牛の長骨骨折の基礎』 臨床獣医 July 2018
です。
筆者の枝村先生は日本大学の外科研究室の先生であり、小動物外科専門医の資格を有されている方だと記載されています。
論文紹介
この原稿は牛の長骨骨折について紹介している原稿になり、骨折の分類からわかりやすく記載されています。
分類については外科の教科書等によく記載されており、小動物で用いる分類と同等ですので、ここでは省きます。
この論文ではどの骨の骨折がもっとも牛で多く認められるのかについて記載されています。この原稿によると牛の長骨骨折は中手骨、中足骨でもっとも多く認められ、四肢骨折の50%以上を占めると記載されています。
ついで脛骨、橈尺骨の骨折が多く、上腕骨、大腿骨の発生は全体の5%未満であることが記載されています。
このデータは令和元年度の日本獣医師学会、年次大会でNOSAI北海道の後藤先生が発表した内容と同様の結果を示しており、おそらくいずれのエリアでも似たような発生分布であると考えています。
この論文では、骨折の評価のために2方向以上のX-ray検査を実施すべきと記載されています。この際に骨折部の遠位および近位の関節を含めて撮影することが重要であると記載されています。
牛の診療ではX-ray検査を実施することが稀であるため、良い画像を得ることができるように注意が必要だと思われます。
この論文では骨折部位を評価し、開放骨折が生じている場合は毛刈りと皮膚を4%クロルヘキシジンで消毒し、開放部を0.05%クロルヘキシジン液で洗浄、最後に滅菌されたドレッシング材で被覆し包帯を巻き、一時処置を行うことが記載、推奨されています。
この論文では、骨折発見から手術施設までの輸送のための外固定(キャスト・ロバートジョーンズ包帯・副木など)についての記載は認められませんでした。
この論文では牛の骨折についての治療計画についても記載されています。
髄内ピン法、サークラージワイヤー法、クロスピン・ラッシュピン法、ラグスクリュー法、テンションバンドワイヤー法、プレート固定法についてその適応例と方法が記載されています。
この論文では骨折の癒合機序について記載されています。
骨折の癒合形式には直接癒合と間接癒合があることが記載されています。
直接癒合は骨折片同士が強い圧力で接していて、間隙が0.01mm以下で歪みが2%以下の骨折で生じると記載されています。仮骨を形成せずに皮質がリモデリングにより直接的に癒合するのが特徴であり、DCPにより圧迫固定をした際に生じると記載されています。
直接癒合以外の整復例では間接癒合が生じると記載されています。
間接癒合は、まず骨折間隙に血腫が形成、肉芽組織に置換、さらに繊維芽細胞が増生し、軟骨組織を経て層状骨になり、最終的にリモデリングでの皮質骨の再構成が行われて癒合すると記載されています。間接癒合では仮骨が形成され、直接癒合に比較し早期に癒合を達成することができると記載されています。
この論文ではX-ray検査による骨癒合評価について記載されています。X-ray検査における骨折整復後の評価は4つのAに基づいて系統的に行うことが推奨されている。
ここでの4つのAは、Alignment(軸配列)、Apposition(並置性)、Apparatus(固定装置)、Activity(生物学的活性)になります。この4つを評価基準にしてX-ray検査時に定型的な手法で評価することが重要だと記載されています。
感想
筆者の枝村先生は小動物の外科専門医ですが、多くの学びのある論文でした。特に、これまで残念ながら知らなかったX-ray検査における骨折整復後の評価方法の定型を知ることができたのは大きな収穫です。
次回症例よりこのような評価方法を採用し、定型に従った評価を実施していきたいと考えています。
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