新生仔馬の鼠径ヘルニア Vol.2

はじめに

前回の記事では、新生仔馬の鼠径ヘルニアについて2冊の教科書を参考に勉強しました。
今回の記事ではEquien Rproduction 2ndに記載してある鼠径ヘルニアについての章を参考にもう少し、鼠径ヘルニアについて勉強していきたいと思います。


Equine Reproduction 2nd

Equine Reproduction 2ndには新生仔および種馬についての記載もある。
2冊に分けられVol.1には新生仔および種馬の記載がほとんどを占めている。

鼠径ヘルニアについてもChapterが作られている。

まずは用語の確認


Indirect hernia; 間接ヘルニア、外鼠径ヘルニア
内蔵が鼠径輪を通過しているが鞘膜の内腔に存在

Ruptured inguinal hernia; 直接ヘルニア
内蔵が鼠径輪を通過し、さらに鞘膜の裂孔もしくは陰嚢膜の裂孔より脱出し、鼠径もしくは陰嚢の皮下に存在

Inguinal rupture; 鼠径破裂
鼠径周囲の腹膜および腹壁が破綻し、そこから内蔵が脱出し、皮下に内蔵が存在。

新生仔馬の鼠径に疼痛を伴わない、縮小可能な腫脹が認められた場合、鼠径ヘルニアが疑われます。このような症例に遭遇した場合、上記に示した3種類のうち、いずれの症例なのか明らかにする必要があります。
間接ヘルニアの症例では、保存療法が第一選択になると考えていますが、直接ヘルニア、鼠径破裂については外科手術が必要な症例が多いと考えています。


多くの新生仔における鼠径ヘルニアは先天性であると考えられる。生後すぐには認められない場合であっても遺伝的な要因が疑われる。片側性の場合は右に比較し左での発生が多いことが報告されている。分娩時における腹部の圧迫および生後数日間における胎便排出のためのしぶりがRuptured inguinal hernia(直接ヘルニア)の発生要因として提案されている。

先天的な鼠径ヘルニアは通常新生仔馬において認められ、鼠径部における疼痛を伴わない縮小可能な腫脹として認められる。 
 
新生仔馬での鼠径ヘルニアは短ければ数週間で自然に治癒し、通常3−6ヶ月齢までに自然治癒が認められる。畜主や管理者は頻繁に脱出した内臓を腹腔内に押し戻す必要がある。これにより、鼠径輪が小さくなり、ヘルニアを起こりにくくする。

大きなヘルニアの新生仔馬に対してはヘルニアバンドを装着させることで治癒までの期間を短縮することができる。仔馬に鎮静薬を投与し、仰臥位に、脱出した内臓を押し戻し、鼠径にコットンもしくはガーゼを充て、粘着性のテープを用いて八の字に両側の鼠径を圧迫するように固定する。通常、このヘルニアバンドを1週間継続する。

鼠径ヘルニアを示した牡の仔馬については医療記録に記載する必要がある。なぜなら、このような既往歴があると去勢手術後の内臓脱出のリスクが高まる可能性があるから。新生仔馬における直接鼠径ヘルニアおよび鼠径破裂では腫脹は減少しないケースがある。そしてケースによってはいくつもの小腸ループが皮下に存在し、皮下組織と腸管の癒着が起こる場合がある。

この教科書では自然治癒までの期間が長めに記載されている。前回の記事では2-3ヶ月で治癒する事が記載されていました。著者の違いかもしれないが、この教科書の方がEquien Neonatology Medicine and Surgeryよりも新しいことを考えると、これが現在の基準なのかもしれない。

ヘルニアバンドの実際の作り方に関する写真などは掲載されていない。作り方にもコツがありそうなので、引用元を読む必要があるだろう。八の字に股の間をぐるぐる巻きにする方法をどこかで見たような気もします。

鼠径ヘルニアの外科的治療に関して

腸管の絞扼性疾患が疑われる場合は常に手術の対象となる。
手術前には経鼻胃挿管により胃減圧処置を行うべきである。
毛刈りおよび滅菌処置の際には注意が必要である。これは皮下に内臓があるため通常の手術に比較して内臓を傷つけるリスクが高いためである。

新生仔馬において外科手術対象となる症例は
コントロールできない疼痛を示し、絞扼性疾患が疑われる鼠径ヘルニアに続発する疝痛、もしくは用手にて内容を腹腔内に押し戻すことができない鼠径ヘルニアとなる。
また、拡大していく鼠径ヘルニアや巨大で自然には治癒しないと考えられる症例についても手術対象となる。
手術方法としては鼠径からのアプローチの他に、正中切開によるアプローチ、さらには腹腔鏡での手術も実施可能である。


基本的には外科的な治療は疼痛を伴うケースと非常に大きなヘルニアが認められるケースに限定される。
疼痛を示す症例であれば、すぐにでも手術を実施する必要がある。また、脱出物を押し戻す事ができない症例においても手術を検討する必要がある。

分娩後3ヶ月くらいまでは十分に待つことができるかも。
ただし、その間の事故率や疝痛の発生についての記載がなにので、どれくらい安全に待つことができるのかはわからない。

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