前回の記事の続きです。
考察
脛骨遠位外果骨折に対して飛節の底外側からの関節鏡手術を2症例に実施した。いずれの症例についても骨折線および骨折片の視認、骨折片の摘出が可能であった。
田上ら発表(第59回競走馬に関する調査研究発表会;「サラブレッドの脛骨遠位外果骨折に対する関節鏡手術」)では、脛骨遠位外果骨折症例に対して、飛節の背外側からアプローチを行っている。この発表では、背外側からのアプローチは変位が小さく、大きな脛骨遠位外果骨折片は、骨折片を覆う軟部組織しか視認できず、ロンジャーやシェーバーなどで軟部組織を除去し骨折片と骨折線を確認する必要があることが示されている。また、同発表では、脛骨遠位外果骨折に対する関節鏡手術は手術手技の習熟を要することが述べられている。
O’Neill & Bladon の報告では、田上らの発表と同様に背外側から関節鏡および器具を挿入し脛骨遠位外果骨折の関節鏡手術を実施している(O’Neill & Bladon 2010)。この報告では、骨折片摘出後に細かなデブリスが関節包の底側に移動することを指摘しており、骨折片摘出後に底外側に器具孔を作成し、移動したデブリスの除去を行うことを推奨している。
Smith
& Wrightの報告では、O’Neill & Bladon および田上らの発表と同様に背外側アプローチで手術を実施している。この報告においても、田上らの発表と同様に脛骨遠位外果骨折に対する関節鏡手術を実施するためには手術手技の習熟が必要であることが示されている(Smith & Wright 2011)。
宮越らは平成28年度産業動物獣医学会(北海道)において発表した際には、脛骨遠位外果骨折に対して、飛節の底内側から70°の関節鏡を挿入、底外側から器具を挿入する方法を用いて関節鏡手術を実施し、この方法で脛骨遠位外果骨折片を摘出可能であることを示した。しかしながら、この底内側および底外側からのアプローチの問題点としては、70°の関節鏡が必要な点、および骨片の背側方向では視野が著しく劣る点だと考えている。
今回の底外側からのアプローチ法による脛骨遠位外果骨折に対する関節鏡手術では、2症例中2症例において容易に骨折線および骨折片の視認を行うことができ、背外側からのアプローチ時に必要な場合のある軟部組織の除去はいずれの症例においても必要なかった。
関節包の底側の洗浄はこのアプローチ部位から容易に実施することが可能であり、この点も本方法の利点の1つだと考えられる。また、以前に宮越らが発表した方法に比較し、本方法では脛骨遠位外果骨折片の背側に至るまで容易に観察可能であり、以前の方法に比較して良好な視野が得られたと考えられる。
最も強調したい点は、この手術方法では骨折片を容易に視認することが可能であるため、技術的な難易度が低い点である。このような理由により、著者らは本方法は脛骨遠位外果骨折の関節鏡手術方法として有用な方法の1つだと考えている。
本方法の問題点として以下の点が挙げられる。まず、飛節底側からの関節鏡手術は一般的に用いる場面が少ないことから、慣れるまでに少数例の経験が必要だと考えられる点。
次に、手術創が馬の寝起きの際に汚染されやすい点も問題点の1つと考えられる。
本論文では脛骨遠位外果骨折に対して底外側からのアプローチによる関節鏡手術の有用性について検討し、本方法がこれまでに報告されている背外側アプローチと同様に有用な方法であることを示した。本方法の利点としては、骨折片が容易に視認可能な点、および関節包の底側を容易に洗浄可能な点が挙げられる。
参考文献
O'NEILL,
H. D., & Bladon, B. M. (2010). Arthroscopic removal of fractures of the
lateral malleolus of the tibia in the tarsocrural joint: a retrospective study
of 13 cases. Equine veterinary journal, 42(6), 558-562.
Smith, M.
R. W., & Wright, I. M. (2011). Arthroscopic treatment of fractures of the
lateral malleolus of the tibia: 26 cases. Equine veterinary journal, 43(3),
280-287.
宮越大輔, 水口悠也, 池田寛樹, 前田昌也 (2016). 馬の脛骨外果骨折の10症例. 北海道獣医師会雑誌, 60(8), 68. (産業動物獣医学会 抄録)
田上正明, 加藤史樹, 鈴木吏, 山家崇史, 木原清敬 (2018). サラブレッドの脛骨遠位外果骨折に対する関節鏡手術. 馬の科学, 55(2), 130-131.
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